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2お義兄さまが断罪されるなんて許せません!

 1週間前。その日はカルトリード家門の春の定例会最終日だった。

 定例会は年に2回、春と秋の繁忙期を過ぎたころにおこなわれ、領地内の各地域を統括する領主代行者たちが一堂に会し、予算の配分からはじまり、情報交換や今後の運営相談、指針の確認などをおこなうのだ。

 

 定例会は3日にわたっておこなわれ、最終日夕方の立食パーティーで閉会するのが常だ。近隣問わず集まってくれた領主代行者たちをねぎらうため、また今年もよろしく、といった意味合いを込めて開催する。


 なかには令息や令嬢の婚姻相手を探すために家族同伴で参加する者も少なくないため、定例会と打って変わって華やかで和やかな雰囲気でおこなわれる、はずだった。


 「アラン・カルトリード! あなたが父であるカルトリード辺境伯を毒殺しようとした証拠はすべて判明している! よってこの場で次期辺境伯継承権を剥奪する! 」


 カルトリード辺境伯家のパーティールームで、私の義兄であるデニス・カルトリードの大声が響き渡った。

 それまであちこちで聞こえていた会話のざわめきや笑い越え、適度な音量で奏でられていた音楽が止まり、一瞬の静寂が訪れた。がすぐに音が消える前よりも大きなざわめきが広がっていった。


 私はパーティールームの扉から死角になっている目立たない場所にひっそりと立っていたが、デニスの声を聴き、慌てて飛び出すと皆が視線を向けている方を見た。

 しかし背の低い私にはドレスやタキシードを着た人たちの背中しか見えない。


 急ぎ足で人々のあいだをすり抜けるようにして、パーティールーム最奥で2階へつづく大階段の前を目指す。人の壁を抜けると、ようやく階段が見えてきた。


 そこには階段を背にしてデニスとデニスの母コートニーが立ち、ふたりと向かい合う形でこちらに背を向けてアランお義兄さまが立っている。アランお義兄さまの斜め後ろには数人の警備兵が控えているのが見えた。

 

「追って沙汰するまで、義兄上には牢に入ってもらいます。おい衛兵、アラン義兄上を連れて行け」


「なっ!? デニス、気でも違ったのか!? 僕が父上を殺そうとするわけないじゃないか!

 それに父上の病の原因は脳にあると専属医師のカールがそう言っていただろう! なにかの間違いだ! カールに聞いてみてくれ! 」

 

 私の位置からはアランお義兄さまの表情は見えない。しかしにやにやとしたデニスの表情と、扇で口元を隠してはいるが嘲るようなコートニーの目つきから、アランお義兄さまが心底驚愕している様子がうかがえる。


「はぁ、義兄上。そもそも、そのカールに父上の診断結果を偽造するように強要したのは兄上でしょう? 罪の意識に耐え切れなくなったカールがすべて吐きましたよ。

 父上の症状には毒を盛られた可能性があると兄上に進言したところ口留めされた、ってね。


 しかも黙っていれば相当の金銭を支払う約束までしたそうじゃないですが。でもそれを反故にしてしまったんですってねぇ。」


「そんなばかなこと! カールにそんなことを言ったことはないし、カールがそんなことを言うわけは絶対にないんだっ! 」


 アランお義兄さまは必死に自身の潔白を訴えるが、そもそもデニスは聞く気はないのだろう。


「と言われても、カールの証言の裏付けは取れていますからねぇ。とりあえず今はおとなしくしていたほうが身のためですよ、あ・に・う・え。」


 デニスは嫌味たらしくそう言うと顎をしゃくるような動きをみせた。するとアランお義兄さまの後ろにいた警備兵たちが動き出した。


 あまりの衝撃に呆然となっていた私は、そこでようやく我に返り、頭をフル回転させて考える。


 前回の定例会で、義父がアランお義兄さまを次期辺境伯に正式に指名したことを家門の皆は知っている。

 定例会後のパーティーでは、アランお義兄さまが後継なら安心だ、カルトリード家門は安泰だ、と好意的に受け取っている人が大多数だったことを私も覚えている。


 アランお義兄さま自身も次期辺境伯として、さまざまな面でこれまで以上に努力してきたのは、多くの人が知っているはずだ。


(皆から期待と信頼を寄せられているアランお義兄さまが、なぜこんなことに巻き込まれなくてはいけないの? デニスお義兄さまの荒唐無稽な告発を、どうしてだれも止めようとしないの!?)


 このままではアランお義兄さまが捕まってしまうと思うといてもたってもいられず、私は人垣の中から飛びだそうと足を踏み出した。


「ちょっとお待ちになって! 」

読んでくださりありがとうございます!


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