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薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜  作者: 蒼井美紗
第2章 世界的な異変

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17、ノエルさんとお茶

 空になった鞄を肩から下げて、また来週と最後の挨拶をしようとしたところで、ノエルさんが先に口を開いた。


「レイラさん、こんなにたくさん重かったでしょう。お茶でも飲んでいきませんか? ちょうどこれから休憩なんです」

「えっと……良いのでしょうか」

「もちろんです。ルインさん、良いですよね?」

「構いませんよ。ただレイラさんを誰かが門まで送り届けてください。王宮内で迷ってしまったら大変なので。私は次の仕事に行かなければなりません」

「かしこまりました」


 ノエルさんが笑顔でルインさんの言葉に頷いて、私はノエルさんとお茶をすることになった。なんで突然お茶になんて誘われたんだろう……フェリスのことがバレてるなんてこと、ないよね?


 緊張しつつ治癒室から少し離れた休憩室に向かうと、ノエルさんはお茶とお菓子を出してくれた。


「ありがとうございます」

「私から誘ってしまったのだから当然ですよ」

「……あの、なぜ私をお茶に」

「そんなに緊張しないでください。――実は私、レイラさんのことを知っているのです。レイラさんは私のことを覚えていないでしょうか」


 予想外なその言葉を聞いて、私はノエルさんの顔をじっと見つめて固まってしまった。ノエルさんと私は以前に面識があるってこと……?


 癖の強い茶髪を後ろで縛っていて、瞳も同じ色。優しい雰囲気で物腰柔らかな男性。騎士団専属の治癒師。


 そんな人と知り合いなんてこと、ある?


「申し訳ありません。人違いなんてことは……」

「いえ、そんなことはないと思います。レイラさんは孤児院の出身ではないですか?」

「なんで知って……え、もしかして」

「はい。私も孤児院出身です。ただ違う孤児院でしたので、レイラさんが覚えていないのも仕方がないですよ。孤児院の交流会で何度かレイラさんをお見かけした記憶があって」


 孤児院の交流会。その言葉を聞いた瞬間に、私の中で記憶が蘇った。優しい笑顔で年下の子達の世話をしていた男の人がいた。大変そうだなと思ってたんだけど……確かにあの人はこんな髪色をしていた気がする。


「思い出していただけましたか?」

「はい。確かにノエルさんがいた記憶があります。小さな子たちがたくさん腰に抱きついていて、困った笑顔を浮かべていたような……」

「ははっ、それは私ですね。妙に小さな子たちに好かれてしまって」


 確かにこの優しい雰囲気なら、子供たちは好きになるよね。


「ノエルさんはなぜ私のことを覚えていたのですか? 私は特徴的なことはしてなかった気がするのですが……」

「うちの孤児院の小さな子が、レイラさんのその髪を羨ましいと言っていたんです。とても可愛らしいと」

「え、そうなのですね」


 そんなふうに思われていたなんて知らなかった。

 確かに私の髪は綺麗な金で、髪質もふわふわとしていてヴァレリアさんにも最初の頃はよく羨ましがられていた。


「この前レイラさんを見て、すぐにあの時の孤児院の女の子だと気づきました。ただレイラさんはまだ小さかったので、私のことは覚えていないかもと思っていたのですが。レイラさんは途中から来なくなってしまいましたし」

「私は十二歳の時にヴァレリアさんの薬屋に住み込みで働くようになったので、孤児院にいたのはそれまでなんです。ノエルさんは私が十二の時にまだ孤児院にいらしたということは……お若いのですね」


 堂々としているから二十代後半ぐらいかと思ってたけど、孤児院には十八歳までしかいられないから、三年前のあの時にまだ孤児院にいたとなると……


「私は二十歳です。いつも老けて見られるのですが」


 やっぱりそうだよね。思っていたよりも若かった。でも二十歳と言われて改めてノエルさんを見ると、そこまで違和感はないかもしれない。


「老けているようには見えませんよ。どちらかと言えば、大人っぽく見えるのだと思います。騎士団の専属治癒師として働かれているというのも、無意識に歳を上に思ってしまいますし」

「そうなのでしょうか。ありがとうございます」


 ノエルさんは嬉しそうに頬を緩めながら微笑んで、少しだけ冷めたお茶を口に運んだ。


「そういえば、レイラさんの孤児院ではご褒美の日がありましたか?」

「ご褒美の日、とても懐かしい言葉ですね。月に一回、美味しいスイーツを食べられる日でした」

「そうですそうです。子供の頃はあの日がとても楽しみで、食べたスイーツは今でも好物です」


 それ凄く分かる。私も自分でスイーツを選ぶとなると、あの日に食べた記憶があるものを無意識に選んでしまう。


「掃除当番や食事当番もありませんでしたか?」


 ご褒美の日から孤児院での暮らしを思い出してそう聞くと、ノエルさんは苦笑を浮かべつつ頷いた。


「ありました。私は庭掃除の日が好きではなくて、雨が降らないかと祈っていたものです」

「ふふっ、ノエルさんもそんなことを考えていたのですね」

「たくさん考えていましたよ。食事当番も苦手で、前の日の夜には憂鬱で寝つきが悪かったり」

「ノエルさんは料理が苦手なのですね。私は食事当番は好きでした。ただトイレ掃除が嫌で、たまにこっそり友達に代わってもらったりしてましたね」

「夕食のおかずで取引するんですよね」

「そうですそうです!」


 久しぶりに孤児院での話ができてとても楽しい。まさか王宮でこの話ができる人と出会えるとは思っていなかった。


「どのおかずがお好きでしたか?」

「私はハンバーグですね。ノエルさんはどうですか?」

「私も一緒です。今はあまり食べませんが、あの頃はハンバーグの日は朝から嬉しくて」

「ふふっ、全く同じです」


 孤児院のハンバーグは味付けされたミンチ肉が近くの食堂から運ばれてきて、それを成形して焼いたものだった。そういえば、あの食堂には孤児院を出てから行ったことがないな。


 私がそんなことを考えていたら、ノエルさんがその食堂の名前を口にした。

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