16、心配と納品
王宮から出て馬車に乗り、薬屋に戻るとすでにフェリスがお店に戻ってきていた。
「フェリス! どうなった?」
『レイラ、もちろん全員助けたよ。それに僕の存在もバレてないと思う。あの治癒師は不思議そうにしてたけどね』
「そっか。良かったぁ〜」
私がフェリスを手のひらの上に乗せて安堵していると、ヴァレリアさんが私の頭をガシッと片手で掴んだ。
「レイラ、説明してもらおうか?」
低い声で告げられて恐る恐る顔を見上げると、凄くこわーい顔のヴァレリアさんがいた。
「……ご、ごめんなさい」
「レイラ、フェリスに治癒をさせただろう」
「はい……あの、治癒してもらいました」
「私はフェリスの存在は絶対に隠せと言ったよな? バレたらレイラの身に危険が及ぶかもしれないんだぞ。確かに助けられる命を無視するのは難しいのも分かるが、全ての人を助けて回るわけにもいかないんだ。そこは割り切らないといけない」
ヴァレリアさんの言葉は完全に正論で、私は小さくなって頭を下げた。
「すみませんでした」
「……はぁ、まあ良い。二人のおかげで助かった命があることは事実だからな。フェリスのことはバレてないんだな?」
「はい。バレてないと思います。ノエルさんが少し不思議に思っている程度だそうです」
その言葉を聞いたところで、ヴァレリアさんは安心したようにリビングの椅子に体を預けた。
「いつかバレる何かをやらかしそうで、心配だな。寿命が縮みそうだ」
「え、それは困ります! ……できる限り心配をかけないよう気をつけます」
そう答えて拳を握りしめフェリスと頷き合っていると、ヴァレリアさんは優しい笑みを浮かべてくれた。
「本当に気をつけてくれ」
「はい」
ヴァレリアさんが私のことを心から心配してくれていることが分かって、なんだか嬉しいな。
「じゃあレイラ、さっそく依頼の薬を作っていくぞ」
それから私たちはフェリスのおかげで疲れが蓄積していないこともあり、さっそく調薬に取り掛かった。とは言っても私は素材を準備したり、器具を洗ったりといった雑用しかできないんだけど。
早く一人前に調薬ができるようになりたいな。そうなれれば、もっとヴァレリアさんの役に立てるはずだ。
『レイラー。それ洗っておくよ』
「ありがとう。じゃあこっちもお願いして良い?」
『もちろん!』
騎士団へ納品する薬の調薬と日々の依頼を忙しくこなしていると、すぐに初回の納品日になった。私は大きなカバンにたくさんの薬を詰め込んで、フェリスと共に乗合馬車に乗る。
「うぅ……重い」
馬車の揺れで膝から落ちそうになった鞄を支えたら、腕が悲鳴を上げた。この重さを毎週納品するとなると、筋トレをした方が良いかもしれない。
『レイラ、大丈夫?』
フェリスのその言葉に周りに気づかれない程度に頷いて、それからも馬車に揺られた。
王宮の近くで降りて門に向かうと、約束通り門にはルインさんが迎えに来てくれているようだ。門の向こう側にルインさんらしき人が見える。
「薬の納品に来た方ですか?」
兵士の言葉に頷いて名前と所属を伝えると、すぐに門の中へと通された。
「レイラさん、納品ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ迎えに来てくださりありがとうございます」
「気になさらないでください。そちらの鞄の中身ですが、この場で軽く中を改めなければいけないので、そちらの台に置いていただけますか?」
「そうなのですね。分かりました」
台に置くと兵士二人が失礼しますと告げて、鞄の中を念入りに確認した。王宮だと荷物も検査しないといけないんだね。
「問題ないようです。ご協力ありがとうございます」
確認が終わったら、さっそくルインさんと共に騎士団の詰所に向かう。
「そういえば、この前の怪我をしたという騎士さんたちは大丈夫だったのでしょうか」
フェリスがしたことは問題になってないかと思ってさりげなく聞いてみると、ルインさんは特に不自然な様子もなく頷いてくれた。
「運良く全員が助かりました」
「そうだったのですね。それは良かったです」
「ノエルさんが頑張ってくださったのと、騎士たちの生命力ですね。もちろん薬にもとても助けられました。レイラさんが納品くださる薬もたくさんの騎士の命を助けるでしょう」
そう言ってもらえると凄く嬉しいな……私もそんな薬をたくさん作れるようになりたい。
「魔物が活性化しているとのことでしたが、それはまだ続いているのでしょうか」
「はい。しばらくは収まらないかと思います」
「そうですか……」
それだと騎士たちはまだまだ命の危険に晒される可能性が高いってことだよね。なんで魔物は活性化するのだろうか。活性化しないようにできたら良いのに。
「レイラさん、先に中へどうぞ」
「ありがとうございます」
詰所に着いて治癒室に向かうと、この前と同様に治癒室の中には怪我人がたくさんいた。
「ノエルさん、レイラさんが薬の納品に来てくださいました」
「あっ、ちょうど良かったです! 傷口に塗る軟膏が先ほど切れてしまって。レイラさん、ありがとうございます」
「いえ、お役に立てたのであれば良かったです。ではさっそく渡しますね」
近くの台に鞄を置いて中身を取り出していくと、ノエルさんが端から手に取ってその品質を確かめていく。治癒師なのに薬のことも分かるなんて、勤勉な人なんだな。
「どれもとても良い品質です。……ルインさん、これは報酬を上げた方が良いかもしれませんよ」
「そんなにですか?」
「はい。調薬しているのはヴァレリアさんでしたよね? とても腕が良い方ですね」
「ありがとうございます。ヴァレリアも喜びます」
そんな会話をしながら全ての薬の納品を終え、皆で書類にサインをした。これで納品は完了だ。報酬は後で薬屋に直接送られてくるので、ここで受け取る必要はない。




