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23話『俺の部屋にいる彼女は、酷く甘い』

 目の前の機械から吹き出る水が俺の顔や髪を浸し、今までの疲れを忘れさせる。……極楽浄土、ではないがやはり深夜シャワーというのは気持ちが良いモノだ。

 あ、吹き出る水って言っているけど。全くもって卑猥じゃないからな?


「ふぅ」


 少し前に買っていたちょっと高級なシャンプーやコンディショナーを使い髪を洗い、バスルームから出る。


 事前に着替えは脱衣所に用意しているので、シャワーから上がって俺はその服を着た。

 春であるが、流石に夜だからかちと肌寒い。


「上がったぞ」

「ん……」


 というかまさか俺がこんなセリフを言うなんて、……エッチやなぁ。


 なんて思いつつ、諸事情によりオレの黒ワイシャツのみを着用している黒髪ポニーテールの美少女を見つめた。


 逢瀬はジト目で、自慢であろう自身の黒髪を指でクルクルと回している。


「どうだ。オレの服の着心地は」

「……さて、どうかしら。少なくとも、反吐が出る程度ではないかもね。私が着れているんだから」

「正直に、丁度いいって言えよ。ツンデレか?」

「だ、断じて違うわ……っ!」


 頬を膨らませつつ、彼女が怒った。

 激おこぷんぷん丸というヤツだろうか。

 ああ、きっとそうだろう。


「それにしても……ちゃんと見てみると、案外オレの服でも大丈夫だったな。─────やっぱり胸がちいさ……」

「殺すわよ?」

「すいませんッ!!」


 うん。その件についてはこれ以上、追求しないでおこう。

 いつものようにガチギレそうだからな。


 今の逢瀬はどちらかというと気分がいい方だし、その状態を崩したくない。


「……うーっ」

「悪かったって、ええ、俺が悪かったよ。ああ、それと逢瀬……なんか食いたいモノあるか? コンビニにある程度のもので」

「こ、コンビニにあるもので? 急にどうしてよ」


 唸る彼女に対し、疑問をぶつけると。当たり前の返答が帰ってきた。


「いいや、小腹が減ったから自分の夜食でも買いに行くついでに、何か食べたいモノがあったら買ってきてやろうと思ったワケだ。まぁこの神対応な氷室政明様に感謝するんだな」

「その気遣いはありがたいけれど、一言多いわね……」


 それは、俺もそう思う。

 でも俺は一言多くないと気が済まない性格なんでな。

 こればかりは仕方がないと妥協してくれ。


「とりま、何が食べたいんだよ? 俺が奢ってやる。……あ、極力(きょくりょく)懐に優しいヤツで頼むぞ」

「─────ん、……なんか貴方に借りを作るのは嫌だな。まだ貴方を自由に命令出来る権利を使ってないのだし」

「……あ、そういえばそんな権利あったな。どうだ、ここで使ってくれてもいいんだぜ?」

「ダメよ、それは絶対にね」


 トホホ……オレの提案は即刻、拒否られてしまいましたとさ。

 もう少し優しくしてくれても良いんですよ?


 逢瀬さん。


「まぁ、冗談だ。冗談。……だから、」

「じゃあ、……スイー……が欲しい、かも」

「え? 聞き取れなかったんだが。すまん、もう一度」

「意地悪っ!!」


 いや、まじで聞き取れなかったんだぞ? これ本当(リアリー)


「だから、スイーツを買ってきてほしい……なっ、て! 言ったのよ!」

「ふむ。ふむむ。なるほど、スイーツか」


 ……なんだ、スイーツか。

 俺は懐疑を抱く。なんでコイツはスイーツが欲しいと言うだけで、そんなモジモジしていたのだろうか。やはりコイツも陰キャなのだろうか?

 それとも、甘党なんだなって俺にいじられるとでも思ったのだろうか?


 んん、正解かもしれん。

 っと、そんなのはどうでもよくて。


「分かった、じゃあ買って来る」


 俺はそう言って、ジャージ姿でマンションを後にしてコンビニに向かった。


 ◇◇◇


「ん、あ……」


 ちゅんちゅん。と、いつもなら聞きなれない音でオレは目が覚めた。

 小鳥の鳴き声? そんなクエスチョンマークを頭に浮かばせながら、意識を覚醒させる。


 いつもならばスマホの煩いアラームで起きるのだが、そういえば昨夜はオンにしていなかったっけか。どうりで、部屋が静かでいつもなら聞こえない自然の音が窓から聞こえてくるワケだ。


 それにしても。


 身体が眠いと叫んでおり、加えてかなりダルい。


「あ、お、おはよ……」

「っ、おはよう。逢瀬……さん?」

「へ? 何故、さん付け」

「いや、気分だ」


 オレは起き上がると同時に、それを目視した。


 悪魔か、はたまた天使か。

 取り敢えず見ただけで目がつぶれそうなその人を見たのだ。……ぐ、心臓に悪い。起き上がった俺の目の前にいたのは、制服姿で俺のベッドに座る逢瀬雫の姿。


 俺が昨日洗濯機に掛けて、その後部屋で干していたのが……きっと乾いてくれたのだろう。


 それにしても腰が痛い。

 ふと見たテーブルには昨夜の深夜に食べたケーキやシュークリーム、アイスの袋が散らかっている。


「……腰が痛い」

「そりゃあ、昨日。あんな事あったからね」

 俺と逢瀬はそんな会話を交わしながら床から起き上がる。


 ─────さて、唐突だが考えてみよう。昨日俺と逢瀬のシチュエーションを思い浮かべると……深夜。思春期の男女が二人。

 そして今の俺は腰が痛い。


 ここから編み出される、昨夜に起こった出来事は何かを?

 きっと予想出来るだろう。


 そう。


 起きた出来事、お話とは。


 えっ……t─────なんて幻想ではなく、昨夜。就寝する直前「私、ベッドで寝たいから氷室クンは床で寝て?」とか逢瀬が俺に意味の分からない提案をしてきたという話だ。


 まじ? ……ああ、マジだ。


「ああ……腰が痛てぇ。ひでぇよな。人の家に来て、相手のベットを奪うとか。やってること強盗だぞ? 逢瀬さんよぉ」

「いやいや、貴方が家に案内してくれたんじゃない」

「そういえば、そうだっけか?」


 覚えているけど、わざトボけてみる。


 しかし、そんなのは一瞬にして見抜かれてしまい、

「本当に、氷室クンって意地悪よね。……いいや、卑劣。狡猾と言うべきかしら」

 なんて言われてしまう始末だ。


 おかしいな。俺は今までそんな悪い事してきた覚えはないんだけれど。どうやら、彼女からの信頼は薄いらしい。


「っと……。というか、今日はまだ金曜日。学校はある」

「ええ。そうね」


 その話をすると、彼女の声のトーンが一気に下がった。

 俺も下がっちまうよ。学校とか……嫌だし。

 そうは言うけれど、きっと逢瀬のテンションが下がった理由はまた別だろう。



 ─────まぁ大方、親関連だろうな。



 コイツの親はかなりの厳しさと。昨夜の話で聞いているし。


 それにいきなり家に帰ってこない……。となると、そりゃあガチギレされるだろう。その怒る理由が心配してくれるというモノだったらいいのだが。


 この世界で、そんな都合よく物事が運ぶワケないだろう。


 現実とは理不尽の連続。だからな。


「まだ投稿するには、早いし時間も余ってる。……どうする?」

「ええ、そうね……。っ、まずは。家に帰って、両親に謝ってくるわ」


 彼女から発せられた言葉から察するに、やはり家、親という存在はかなり不安要素らしい。……俺には理解出来ないが、そういうものなんだろう。

 それにしても、親と再開してまず考える事が謝罪、か。


 なんだろうか。

 なんとも言えない気分に苛まれる。


「そうか。じゃあ俺もついていっていいか?」

「つ、ついてくるの?」

「いや、逢瀬が嫌だと言うのなら良いんだ。ただちょっと、大丈夫かなと不安になっちまっただけで」

「……そ、そう。じゃあ好きにしなさい」


 どうやら付いていって良いらしい。

 彼女直々に許可を貰ったからな、胸を張って行けるぜ。


「じゃあ急がば急げ。ということで、行くか」

「それを言うなら、急がば回れ。じゃないの?」

「そうだっけか?」

「……あれ。昨日、私が見た貴方のたくましさは幻影だったのかしら」


 はてはて、何の事を言ってるのか分かりませんなぁ⁉


「オレはいつでもへっぽこだぞ。昨日のお前は、自分で少し暴走しすしぎてたから……そういう風に思っただけだろう」

「そ、そうかも。……うん。確かに貴方みたいな人をたくましいと思うのは、おかしいわね」

「おい。コレは自虐だから言いであって、お前からそう言われると……かなり傷つくんだが」


 そう言うと、いつものような笑みに合わさった小悪魔の様な微笑を浮かべる逢瀬雫。なんだか雰囲気が怖い。



 ─────気のせいだと思ってくれれば、幾分マシなんだがな。



「というか、早くしないと。家に行く暇がなくなる。早く行こう」


 そうして、俺と逢瀬は学校の準備を整えて逢瀬宅へ向かう事になる。

 ……鞄に教科書はあまり入っていない。今更に、置き勉しといて正解だったとにやけれる。


 っと、そんなどうでもいいコトはおいておいて。

 まずは目先の事を解決する為に意識を割こうとしよう。

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