37話 記憶と共に
雷は鳴り止み、雲と雲の隙間から青い空が見える。ここ数か月間天気の変化が激しい。
初代神楽のことで頭がいっぱいになっていたが、シャドーピープルをどうするか考えなければいけない。
「手伝うってどういうことだ? お前は人を殺したくないんじゃないのか」
「僕はすでに人を殺してしまっている。だから今更殺すことに抵抗なんてないよ。もちろん一緒に連れて行ってくれるよね」
初代神楽は変なものを見ているかのように僕を見つめる。
「だめよ。唯舞暉くん。あなたはまだ許される。私と初代神楽は多くの人を殺めてきたからもう助かるすべはない。後悔はしてないし、それが仕事だった。だけど、唯舞暉くんは何も罪を犯してない。助かるのよ。だからお願い、何もしないで普通の生活に戻って頂戴」
なにか良いこと言っているが、この女は何十人も人を殺し、僕と芽衣を恐怖に貶めた極悪人である。
「シャドーピープルの言うことは信じられない。あなたがシャドーピープルであることに芽衣は傷ついただろうし、裏切られたと感じていると思います。だから、もう僕たちに関わらないでください。それがあなたのできる最後のことです」
佐藤先生はひどく落ち込んだ様子だ。
頼むから、もう消えてほしい。シャドーピープルに時間を取られたくない。
「芽衣ちゃんを傷つけることになるなんてずっと前から予期していた。そして、芽衣ちゃんを殺さなければいけない日が来ることも知っていた。初代神楽の件は予定していなかったけどね。ここで、芽衣ちゃんを殺すことが出来たら今後私の子孫はこの役割を担わなくてもいいの。つまり呪いが消えるってことね。だから許してほしい」
こいつは何を言っているんだ。人を殺すのを許すわけがないだろう。
「おい。使者神楽。早く行くぞ。俺は待つのが嫌いだ。今来い」
ここで、初代神楽を優先するべきか妹の命を優先するべきかどっちが正解か分からない。初代神楽を見逃せば、多くの人が犠牲となる。逆に、シャドーピープルを自由にすれば芽衣が死ぬ。
どちらも犠牲にすることが出来ない。
決められない……
「お兄ちゃん。私いいよ、死んだって。私一人の命より大勢の命を救ってあげてほしい。それに、佐藤先生が私を殺したら佐藤先生も死ぬんでしょ? それならいいよ」
芽衣を犠牲にしてまで大勢の命が大切なのかと必死に自分に問いかける。何度問いかけても返ってくる答えは同じだ。どちらも同じくらい大事であること。
悩んでいる時間がないのは分かっているし、早く決めないとどちらも失うことになる。
「お兄ちゃん。そんなんじゃ、モテないよ」そう囁き、ポケットにしまっていた刃渡り十五センチ程度のナイフで勢いよく胸を突き刺した。それを見たシャドーピープルは駆けつけ、おんぶし、墓までの階段に飛び込む。二人とも勢いよく転げ落ち、頭から血を流している。
何が何だか分からない。展開が早すぎる。僕は無心で初代神楽に近づき、腕をへし折る。初代神楽は唖然としていたので、隙が出来ていた。ブチッと鈍い音とともに大量の血が噴き出す。
「何するんだ。妹が死んだからってあわてるな。一旦落ち着け」
「あわててもないし、取り乱してもない。決心がついたんだ。やっとな」
弱っている初代神楽を引きずり、パーツを引き裂いていく、すると肉体から魂が抜け、以前の姿に戻る。成功だ。あとは棺を開ければ僕の勝ちだ。
棺の前に立ち全力で開ける。すると、魂は渦を巻いて棺に吸い込まれていった。
「何するんだこの役立たず。絶対に許さない。絶対に許さな……」
終わったのか……すべて。
結局何一つ救うことが出来ずに、僕だけが生き残った。なんて酷いやつなんだ。家族、友達を失った。
階段を転げ落ちた二人を見てみると、シャドーピープルだけがいなかった。生き返ったのかとあたりを見渡す。すると、後ろから奴の声が聞こえてきた。
「芽衣ちゃんは死んだ。そして私もあと数分経てばあの世に行く。あなたに一つ言いたいことがあるの。
それは神楽の呪いから解放されるために動いてくれてありがとうってこと、あなたが動かなければ、今後ずっと続いていたと思う。今の結果に納得いってないかもしれないけど、これがみんなにとっていい終わり方だったと思うわ。本当に感謝している」
誰も信頼できる仲間がいない中これからどう生きていけばいいのだろうか。僕が死ぬことで、やっとこの呪いは終わるのだろうなと感じる。
大勢の命を救えた事実が僕の精神状態を保つ柱となるだろう。
「あ、やばい。唯舞暉くん。この墓がもうすぐ崩れ落ちる。早く逃げて」
そういえばさっきからガタガタと大きな音を立てていた。芽衣の遺体を横目で見ながら階段を駆け下りる。
心臓がキュッとなり、持って帰ってあげたいと思う気持ちを抑え、墓の出口を目指す。
地面が揺れ、ところどころ割れている。ゴロゴロと岩も転げ落ちてきている。今五十メートル走計ればきっとベストタイムが出る。
崩れ落ちる前になんとか墓から脱出することが出来た。最寄り駅の方に向かって歩いていると、後ろから大きな音が聞こえ、振り返る。
丘のような場所にお墓があったのだが、その丘ごと崩れ落ちたみたいだ。あの中に芽衣がいると思えば思うほど辛くなりそうなので、安らかに眠れと心の中で願った。
すると丁度芽衣が転げ落ちた場所から白い影が出て、空に昇って行った。
ありがとう……
〇
果たしてこの呪いが綺麗サッパリ消え去ったのか分からない。また復活するかもしれないし、そうならないかもしれないし。僕は二度と起きないことを願っている。僕が犯した罪だが、僕自身全く記憶がないので警察に自首することもできない。僕にできることはこれまでの出来事を忘れずに、しっかり生きることだ。
大学生になることが一つの目標でもあったので、勉強し、受験をした。
新しい環境で、周りは知らない人だらけで、頼れるような人はいないがネガティブに考えずに前だけ向いて歩んでいきたいと思う。
風の噂だが、あの出来事の後三上先生が行方不明になったらしい。
不定期投稿にもかかわらず、最後までこの物語を読んでいただきありがとうございました。二年もかかるとは思ってもいなかったです。最後の展開は悩みました。バッドエンドかハッピーエンドかなどなど……
とにかく、最後まで走りきることが出来て良かったです。次の物語を書く際は計画的に投稿できるよう心掛けたいですね。




