33話 生きている者
僕は正直迷っている。いくら妹がSOSを出しているからと言って、僕が助けに行く義理があるのか。ただ、一応血のつながりがあり同じ神楽の人間だ。それに、一度芽衣を守る心に誓った。男に二言はない。母さんの捜索も並行して行わなければならないとすると妹を完全に守りきることができるか。また中途半端に関わって誰かが目の前で死ぬことになるのは耐えきれない。
結局返信できないまま時間が過ぎ、午後五時のチャイムが鳴る。
呪いのことを忘れようとしても忘れさせてくれない。これもまた運命なのか。当たり前の日々を送ることがどれほど貴重で、素晴らしく、幸せであったのか……昔の自分自身に言ってやりたい。
過去を変えることはできないが、未来を変えることはできる。未来を変えるには今行動しなければ間に合わない。
僕は今という世界に目を向けず、ずっと先の未来や後悔した過去ばかりに目を向けすぎていた。
一日一日、一秒一秒を大切にして、どんなに小さなことでも良いのでできることだけに集中して一歩一歩確実に前進する。判断に困ったときは過去の経験を活かす。これらをすることで未来は切れ開かれ、道となる。
将来を気にしたってしょうがない。今を生きるしかないのだから。
これで心がスッキリした。今できることをしよう。
〇
久しぶりにジャンボ武井に入店し、学生が周りに多い中一人でドリンクバーだけを頼み待つ。
どういう顔で芽衣に会って話せば良いのかわからない。おそらく芽衣もそう思っているだろう。とにかく普通に、そして気まずい雰囲気にしないよう心がけよう。
「待たせてごめん。とにかく今起きていることを話したくて」
「それならメールを読んだが、ストーカーっぽい人に悩まされてるんだよな」
「ええ。最近気配がすごくて、前お兄ちゃんが言っていたシャドーピープルとはまた違うのよ」
もしシャドーピープルが芽衣を追っているのだったら間違いなく姿を見せ、恐怖を与える。ただの陰湿なストーカーの仕業か呪いに関係するなにかの仕業なのかはハッキリとわからないがどちらにせよ危険な状況であることは間違いない。
「ストーカーに心当たりはないのか。例えば最近誰かとトラブルを起こしたとか、知らない人に話しかけられたとか」
「全く心当たりはないね。ただ、これは勘だけどストーカーは男の人だと思う」
「どうしてそう思うんだ。芽衣を逆恨みした女子からのストーカーかもしれないじゃん」
「あくまでも勘だからね。根拠とかそういうものはないけど、ただそう思っただけ」
シャドーピープルはおそらく男、あれ、奴はそもそも生きている人間なのか。僕が最近会った初代神楽の少年のように死んでいるが、この世に降りてくる能力を持った特別な存在なのか。奴についての情報が全くない。これまで何度も奴と会い、殺されかけた。その時を生きるのに必死で何もできなかった。情けないな。
「シャドーピープルではないという確信はどこから」
「あいつではないと思う。絶対に。もしあいつだったら今頃私を殺しているんじゃないかな。あ、そういや前にお前は殺したくないって言ってたような」
お前は殺したくない。これはどういった意味なのだろうか。神楽家とはほとんど縁を切った状態だったから殺しまでせずに脅すだけ脅したのか、それとも奴が芽衣のことを……
「お兄ちゃん。私が今日言いたかったのはもし殺されたらその犯人絶対捕まえてほしいってこと。頼れるのはお兄ちゃんだけだから」
「絶対に死なせない。だから一緒に生きよう。大丈夫、僕がなんとかする」
〇
シャドーピープルについての情報をまとめてみる。
①中折ハットを被り、ロングコートを着ている。(一九〇〇年代初期アメリカファッション)
②背丈は標準(男性平均でみると低めか)
③日本語を堪能に話す。
④生きている人間である可能性は低いか
⑤芽衣を殺したくないと思っている
まだまだ情報は少ないがなんとしてでも奴の正体を暴いてやる。
「頑張っているね」
初代神楽の少年が現れる。
「急に現れないでくれ、僕は今忙しいんだ」
「冷たいな。協力してあげようと思って来たのに」
協力してくれるのはありがたいが、今は間が悪い。それに頑張っているねってなんだよ、人の苦労も知らないくせに。
「てかさ、君は死にたくないんでしょ? だったら早くシャドーピープルところ行って殺せばいいじゃないか」
「そんな簡単な話じゃないんだよ。僕は死んでいる。この世界には君のおかげで降りてくることができたけど、生きている人間に危害を与える力は持ってないんだ。だから君に代理で頑張ってもらいたいんだ」
いくら死神でもこの世に危害を与えることはできないか……あれ、だとすると奴は生きているのか。死神はかなりの力を持っているはずだ。しかし、この世では何もできない。そんな死神よりもシャドーピープルが上の立場だと思えない。奴は生きているのだ。僕と変わらない普通の人間の姿形をして。
「おもしろいことがわかったよ。ありがとう。それより僕のおかげでここに来ることができたって言っていたけど、それってもしかしてあの墓」
「大正解。まあ別にこの世界に来る必要は本来ないんだけどね。でも今結構危険だから来ることができてラッキーさ」
「てかなんでもっと早くにここに来なかったの」
「前はかなりやる気になって頑張ってたけど、最近諦めていたからね。それを応援するためにかな」
母さんが言っていた初代神楽を怒らせてしまったという説は間違っていたのか。少年を見る限り怒るどころか喜んでいる。電話の最後に言おうとしていた続きは気になるがまあいいか。
「君は向こうの世界に戻らないの」
「戻りたくても無理さ。君が一度ここに降ろしたのだから」
「そしたらもう一度あの場所に行けば戻れるってこと」
少年は頷きニヤリと微笑む。
〇
邪魔者を殺す羽目になってしまったが、あの化け物を誕生させてしまう可能性をなくせたことは喜ばしいことだ。
「彼らが動き出したら最後のミッションを遂行するのかい」
「ええ。だけど慎重にね。せっかくここまで上手く事を運ばせてきたのだから」
厄介なことにこの世にいてはいけないやつが来ている。そいつが神楽に変なことを吹き込まないことを祈るばかりだ。
残り数話となりました。
読者の方が納得のいくような終盤が投稿できるよう最大の努力をしたいと思っています。よろしくお願いします。




