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31話 悪戯


「神楽くん、そろそろお召し物をお替えになられては? あら、あなたのお家貧乏だったかしら。いいわね、貧乏人は人目を気にしなくて」


 怒りなどない。あるのは虚しさ。


 貧乏ならば子供なんて産むのは間違っている。ただ、この世に産まれてしまったのだから、それなりに楽しまなくはいけないと思った。今更、いじめっ子に復讐したいだなんて微塵も思っていない。


 初めていじめを経験した時は怖さと怒りがあった。どうすれば良いのか何度も悩んだ。しかし、よくよく考えてみればこの時代にいじめなんて当たり前で普通のことだ。お金、地位権力を持っている人間は優れていて、そうでないものは無能の烙印を押され、一生かけてもひっくり返ることがない。


 近代化を目指している以上、困窮者に目など向けるはずがない。しかし、困窮者だからと言って、何もせずにただ時間が過ぎるのを待つのは御免だ。

 あるゲームを始めようじゃないか。






 腹のあたりに浮いている少年をまじまじと見つめ、問いかける。


「君は何者だ。死者か」


「僕は神だ。そして、君は僕の使者だ」


 イメージしていた神とはかけ離れている。僕の神のイメージはもっと華やかでキラキラしていて、穏やかな印象である。しかし、少年は全て逆の印象である。


 気味の悪い笑顔、ぼろぼろの服、無口で虚ろ。神というよりかは死神ではないのかと感じた。


「僕は君の使者になった覚えなどないが」


「誰が使者になるかは僕が決める。それよりも、こんなどうでも良い話をしにわざわざこの世に降りてきたのではない。ただ一つだけ忠告に来た。シャード―ピープルに気をつけろ。絶対に逃げ切ってほしい」


 目玉が飛び出しそうな力強い眼差しをこちらに向ける。これまで、全てを見透かしたような余裕さがあったが、今はまるで余裕などなく焦っているような眼だ。


「やだね。もうどうでもいいんだよ」


「それじゃ、君は死ぬ。そして僕も」


 君も死ぬとか言っておきながら、どうせ少年が助かることしか考えていないだろう。三途の川で父がこの呪いのもとがこの少年と言っていた。もしそれが本当ならば、僕も死ぬかもしれないが、少年も一緒に死んだ方がみんな幸せになる。いや、そもそも神のくせに死ぬってなんだ。


 昔読んだ本で死は二回あると書かれていたのを思い出した。


 一回目はこの世での肉体的な死。二回目の死はその人物の記憶を持つものがこの世からいなくなる精神的な死。つまり、あの少年は一度この世で死んで、あの世に行き神となった。そして、シャドーピープルに精神的な死をお見舞いされるかどうかの瀬戸際に立たされているということか。


 なんにしても、僕には関係のない話だ。僕は死んでもかまわないし、その覚悟はもうできている。


「死ぬ覚悟なんてできているから、僕にはどうでもいい話さ。だから君の事情だけでそんなめんどくさいことをするわけないじゃないか」


「君の妹は死んでもいいのか」


「芽衣も死ぬのか」


「いいや、それは分からないが、もしかしたらそうなるかもしれないと思っただけだ」


 芽衣を守りたい気持ちはまだ残っている。しかし、芽衣が僕と関わりたいと思っていない。それもそのはず、疫病神である神楽家と関わりたいと思うはずがない。


「もういいさ、もうどうでもいい。頼むから消えてくれ」


 少年は初めて悲しそうな顔をし、蝋燭の火が消えた時のように静寂に姿を消し、白い煙が漂っている。




 煙のような刺激的な匂いを感じ、目が覚める。


 少年が消えた後、倒れるように眠りについた。スマホの画面をタップし、時間を確認する。時間は思っていた以上に進んでいなく、朝の九時過ぎだ。


食パンの消費期限が今日だったので食パンを取り出し、袋をゴミ箱に捨てる。


 食パンの匂いが微量だが違う。それに、少ししぼんでいる。


 消費期限ギリギリではあるが、食べるのには支障がないはずだ。消費期限が書かれている袋をゴミ箱から取り出し確認する。すると、消費期限は昨日までだった。寝る前の朝二時に勉強していたノートの日付を見ると確かに消費期限当日のもので、間違えて日付を記憶していたわけではない。


 どうやら僕は丸一日以上寝てしまっていたのだ。


 スマホの画面を見た際に気付くべきだった。食パンの消費期限は過ぎているが、カビが生えていたり、匂いが異常だったりするわけではないので、食べられるだろう。なにせ丸一日なにも食べてないのだ。お腹と背中が引っ付くとはまさにこのことかと身に染みて感じた。


―プルル


 電話のコール音が鳴る。スマホの画面には非表示と表示されている。


「もしもし。どちら様ですか」


「急にごめんなさい。神楽由佳です」


 お母さん……


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