27話 虚ろな目
凛と妹の関係は分かった。そして、会える方法も分かった。
例の河川堤防の橋に行けば会える。厳密に言えば会えるというよりも様子を見ることができると言った方が正しい。そして、僕が下手に関わると良くないので凛に一人で会ってもらって、僕たちは遠くから見ることにしようと考えている。
「連絡先を聞けたら一番良かったのだけれどね。それだけじゃ知っていると言えないわね」
「まあ、凛ちゃんのおかげで芽依を探す手間が省けたからね…十分じゃない? しかも数回会って話してるんでしょ? それはもう知り合いだよ」
「ありがとう」
「なあ、そろそろ昼食を取らないか。もう一時半だ」
「あ、私パスタがいい!」
「近くにあるファミレスでも行くか」と言ったが、近くにあるのかは分からない。
「そうね、ファミレスだったら咲さんの食べたいパスタもあるし、私たちも好きなもの食べれるね。でも近くにあったっけ?」
僕たちは携帯のマップのアプリを起動して、『ファミレス』と検索した。すると、一応今もやっているところがあり、そこへ向かった。ファミレスの名前は『ジャンボ武井』というらしく、ここの地域のみのファミレスらしい。
一応評価を見ると三.五という中途半端なものだった。そもそも店の名前が少し変わっているというか、センスがなさすぎなのではと思ったが、気にするだけ無駄かとも思った。
店に入るとすぐに席に着くことができた。やはりそこまで繁盛していないのかもしれない。窓側の席には勉強している学生が多く見られた。
この時期はどの学校も中間テストが予定されている。よって、ここにいる学生は明日の教科の勉強をしているのだろう。
それにしても学生にとってはこれほどいい場所はないだろう。食べ物を欲しい時に注文できて、ドリンクバーもあり、客は少ない、そしてファミレスなので安い。僕が学生ならば毎日ここに入り浸っていたかもしれない。
「ねえ、ねえ、聞いてんの? 神楽は何食べるの」
「あ、ごめん聞いてなかった。僕はハンバーグかな」
「ちっ、つまんなー、さすが普通の男」
「いや、そんなこと言われる筋合いないわ。てか、それはお前もだろ」
「私はいいのよ、モテてるから」
「なんだよそれ、理由になってねーし」
「ちょっと、なんで二人ともそうすぐに言い合いになるかな」
「いや、全部市榮が悪いから、僕は関係ないね」
本当に何やってんだよ僕は。小学生か。でもなぜか市榮の前では素直になれる。
◯
腹も満たされたことなので、河川堤防に行って、芽依に会おうと皆で意気込む。
「あ、僕お手洗い行ってくるから先出て」
「了解。ご馳走様」
「え、これ唯舞暉の奢り?」
「は? まあいいけど、ここまで来てくれたし、払っておくよ」
全く、市榮には優しさというものがないのか、しかし、ここまでついてきてもらっているのに払わせるのは違うか。
「合計二〇〇〇円です」
流石ファミレス安すぎる。
―ゴン ガガガガ ゴリッ
僕は外に出ると先ほどまでとは違った異様な雰囲気に気がついた。“誰か”が車の下敷きになっている。その誰かとは知っている、知っているが信じたくない。夢であると思いたい。そろそろ目覚めてくれないか、そうでないと僕はこの先生きて行けそうにない。ああ。やはりこれは呪いのせいなのか。
「誰か救急車を!」
僕はボーッと突っ立ったままでしかいられなかった。
「け、警察も呼んでください」
周りにいた人々は協力して助けようとしているのに、僕は一言も発することができない上に行動することもできない。
◯
「あのー、そろそろ話してもらってもいいかな」と警察官は困った顔をした。
「すみません。まだ信じられなくて…」
「被害者があなたのご友人の綾瀬凛さんで間違い無いですね?」
「はい。間違いありません」
そうだ。車に撥ねられて下敷きになっていたのは凛だ。僕は凛を守ると誓った。でもこのザマだ。もうどうすることもできない。本当に酷いやつだ。
「状況を説明できるかな」
「事故が起こった時僕は会計を済ませていたので、見ていません」
「そうか、そうか、とりあえず今日はここまでにしようか。明日またここに来てもらえるかな?」
「いいですが、これ以上知っていることなどないでよ」
「まあ、念の為さ」
隣の雑居ビルに喫茶店があったのでそこで一度気持ちを落ち着かせた。
「神楽、私、私がもっときちんとしてれば引かれることもなかったのに…」
「市榮は何も悪くない。悪いのは全部僕だ」
しばらく沈黙が続いた。お互い今は気持ちを整理することで頭がいっぱいだ。今後のことなど一ミリたりとも考えていない。
車の運転手は居眠り運転をしていたため事故を起こしてしまったらしい。恨む気力すら無い。太陽がちょうど沈む時間帯になり、一度カフェを出て窓から日の入りを見る。凛が死んだことで芽依と会えるチャンスが無くなってしまった。
一体僕は何をしているのだろう。これまで僕と関わった人が何人も殺されてきた。これでは人殺しの犯罪者と何一つ変わらない。なんなら、自分で手を汚していない分卑怯で厄介なやつだ。
この件ではっきりした。もう誰とも関わらない。
「神楽、そろそろ帰ろっか。もう今日は疲れた」
「なあ市榮、今日は来てくれてありがとうな…いつかまた会える時があるといいな」
「何言ってるのよ…」
僕たちは無言のまま電車に乗り帰った。最後は市榮へのお礼も込めて笑顔で別れた。




