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26話 接触

 母と私はいつ話せるのかソワソワしていると、突然悲鳴が聞こえた。声質からして芽依ちゃんで間違い無いだろう。皆が芽依ちゃんの方に注目する。カーテンがあり、状況が分からずモヤモヤしていると、勢いよく芽依ちゃんが飛び出して病室を出て行ってしまった。看護師さんと美優さんはどちらも顔を真っ青にしていた。そして、美優さんが飛び出し、芽依ちゃんの後を追ったのを見て私も走った。


「ちょっとー。芽依何処に行くの?」


 私も声をかけようと試みたがそうする前に芽依ちゃんが「ついてこないで!」と声を荒げて言った。


 私たちはその姿に驚き足が止まった。


「そうだよね。大変だったから…ゆっくりでいいから一緒に歩んでいこう」と美優さんは優しく言った。


「あの…大丈夫ですか」


「あ、え、全く問題ないよ。しかし、芽依のやつなにか隠してるな。あんな姿初めて見たよ」


「私は芽依ちゃんとお話ししたことがありませんが、何か精神的に負担になる出来事があったことは分かります」


「そういや、あなた達から見えてた?」


「見えてた?何がですか?」


「あ、さっきカーテンの隙間から患者さんの視線感じてたから、もしかしたらあれも見えてたのかなって。で、でも見えてないのだったら今の話は忘れて」


 あれとは何なのだろうか。しかし、それが原因で芽依ちゃんの様子が変わってしまったことは言うまでもない。そのことについて知りたいとは思うが、私にとってはそれよりも芽依ちゃんの苗字が気になる。やはり、唯舞暉の家族または親戚か。

 

 神楽という苗字は全国で見ると二〇〇人未満だ。これは唯舞暉がそう自慢していたからはっきり覚えている。確かにいないわけではないが、ここは東京二三区外で一〇万人未満の市である。


 そんなところに全くお互いを知らずに住んでいる訳がない。そうなればやはり家族か親戚になる。もしかしたら美優さんはそれについて知っているかもしれない。聞くのも手だが果たしてそうペラペラ口を滑らせてくれるのか。古くからの友人なら尚更だ。とりあえず聞くだけ聞いてみよう。


「あの…美優さん。少し答えづらい質問かもしれませんがいいですか」


「答えづらい質問? 私が知ってることなら答えられるけど…何かな?」


「芽依ちゃんのことなのですが、お兄さんや親戚に年上の男性がいましたか」


「え、あー。なるほどね。でもそれなら本人に直接聞いた方がいいんじゃない?」


「やっぱりそうですよね。分かりました。でも、芽依ちゃんここに戻ってきますかね」


「それは分からない。あ、いい場所教えてあげようか? いつも芽依そこにいてるから」


 私は美優さんに教えてもらった場所へ向かった。病院を逃げ出してすぐにそこへ向かうとは到底思えないが、少しでもそこにいる可能性があるのであればそれに賭けるべきだろう。


 昼間で人口が少ない市ではあるがかなりの頻度で人とすれ違う。それを見ると一応ここも都内であることに改めて気付かされる。二三区内ほど都会ではないが、ある程度の娯楽があり、今まで交通機関に不便を感じたことがないのでとても住みやすい地域だと思う。


『芽依は河川堤防に架かった橋の下によくいてるよ』と美優は言った。


河川堤防。


 河川堤防というと芽依ちゃんが事故を起こした場所だ。そこは病院から徒歩で二〇分程の距離で、それほど遠くない。そのため家に帰る前に寄っている可能性が高いと思うが、何よりも事故によってそこがトラウマになっていないかが心配である。


 河川堤防に沿って歩くこと十五分、大きな橋が目に飛び込んできた。こちらの方面には来たことがなく橋は見たことがなかった。橋は思っていた以上に大きく、立派なものだった。私はその下を目を細めて見た。そこには女の子らしき姿があり芽依ちゃんだと確信し、走ってそこまで向かった。


「あの…芽依ちゃんですか? 私は綾瀬凛です。芽依ちゃんと同じ病室に母が入院してるんだ。それで是非芽依ちゃんとお話ししてみたいなと思ってたんだ。あ、迷惑だったら言ってください」


「そうなの。でもごめん…今私話す気なくて、本当にごめんなさい」


「いやいや、謝らないで、もともと私が勝手に来てしまったのが悪いの。謝るのはこっちだよ」


「せっかく来てもらったのに…あ、でも今日は無理だけど明日以降なら多分大丈夫。私時間帯はバラバラだけどいつもここにいてるからいつでも来てね」



 あのことから数週間経った。あれから毎日とまでは言わないがほとんどあの橋の下に行っている。しかし、タイミングが合わないのか、そもそも芽依ちゃんがしばらく来てないのか分からないが一度も会っていない。

 

 そして、その期間中母が息を引き取った。ある程度心の準備ができていたことと、ここでもし泣いてしまったら幼い弟に心配をかけてしまうのではないかと思ったことがあって、葬式では何とか涙を堪えることができた。その後、私たちはおばあちゃん達に引き取られた。


 幸いにもおばあちゃんの住んでいる地域がもともと住んでいた地域と同じだったので転校をする必要はなかった。表面上は明るく振る舞っているが精神的にはかなりきていた。よって一人の時間が欲しかった。

 

 河川堤防から近い駅で降りてふらふらと何も考えずに歩く、すると橋の下に見覚えのある姿があった。


「あの…覚えていますか? 綾瀬凛です」


「あ! 凛ちゃんだ! ずっと会いたかったんだよ」


「ずっと会えなくて忘れられたのかと…」


 怪我のことや母が亡くなったことや学校であった出来事のなどこの数週間にあったことを全て話した。そして私が何よりも一番気になっていた苗字のことを尋ねた。


「私ね親とか兄弟のことあまり知らないんだ。なぜって思うでしょ。それはね私幼い時に捨てられたの。だからあまりよく分からなくて」


 私は今にでも逃げ出したくなった。彼女のシビアな過去に触れてしまったことにとても申し訳なく感じた。不本意ではあったがもっと慎重にするべきだったと後悔する。


「あ、今気まずいと思ったでしょ? なーに大丈夫だよ。私別に気にしてないし、それに今がとても幸せだから大丈夫だよ」


「気を遣ってくれてありがとう。実は私ね芽依ちゃんと同じ苗字の子が同級生にいてもしかしたらその子の妹かと思ったの…」


「もしかしてその子って男の子?」


「うん、そうだけど」


「何で遊んだとか何を話したとか細かな記憶は残ってないけど、お兄ちゃんがいた記憶はなぜかあるんだよね。あ、でも会いたいとは思わないよ。今会っても誰ってなるだろうし…」


 それから数週間に一回あの橋の下で芽依ちゃんと話した。しかし、最近は受験勉強が忙しくなり全くそこへ行けなくなった。せめて連絡先を交換しておけばよかったと思った。


新生活に向けての準備がバタついてなかなか書けませんでしたが、やっと今落ち着き話を書くことができました。これから面白い展開になってくると思いますので今後ともよろしくお願いします。

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