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24話 懐旧

 雑貨ビルの窓から、夕日を見ながら僕は泣いていた。その横には市榮もいた。


 ある事件から数週間経ったが、まだ気持ちの整理がつかない。そして、ある理由から妹に会うことができない。きっと僕は何もできなかった無能なやつのまま死に、天国で馬鹿にされるだろう。いや、むしろ周りを不幸に導いた悪の神様として、地獄では誇られるかもしれない。そんな理不尽な運命誰一人望んでいないだろう。もちろん僕だって望んでいない。


 しかし、誰かがその役目を担わなければならなかったのだろう。それがたまたま僕たち神楽家だったのかもしれない。つまり、もう僕にはどうすることもできないのだ。それに、シャドーピープルは『この変えようのない運命』と言っていた。やつが正しかったのかもしれない。


 時間が刻々と過ぎていき、日は完全に沈んだ。


「そろそろ行こうか」


「もう大丈夫なの?」


「ああ。もう帰ろうか…」


「本当にそれでもいいの?」


「ああ。やれることは全てやった。これ以上できることはない」


―そうだ。お前は諦めるほかない。黙って、私に殺されろ


 ドクンと一つ大きな脈を打ち、だんだんと鼓動が速くなる。冷や汗をかき始め、さらにめまいもしてきた。嫌な予感がして、辺りを見回す。時間が遅いせいか、僕と市榮の周りには誰一人いていなかった。最悪なことに、奴の声が聞こえるようになってしまったようだ。


「市榮。なにか嫌な予感がするんだ。どこでもいいから人がいる所に行こう」


「なによそれ。嫌な予感? 神楽ってそんな面白いことも言うんだね」


「はや-」


 黒い靄が僕の前に現れ、だんだんと色が濃くなり、人の形に変化した。思わず尻餅をつき、怯えて後退りをする。呼吸がだんだんと荒くなり、満足に息をすることができない。


『調子はどうだ。神楽さんよ…』



 僕は、高校生の頃凛が好きだった。彼女は優しくて、明るくて、頭が良くて、運動もできて、何でもできて、おまけに顔がタイプだ。そんな彼女に憧れ、いつの間にか恋をしていた。しかし、僕が告白したときには西園寺と付き合っていて、時既に遅かった。それなら、西園寺には悪いが凛を奪ってやろうと思った。それほど彼女を愛していたのだ。計画は、まずは西園寺と仲良くなり、三人で出かける回数を増やし、最後に奪って西園寺と絶交する。計画通り、西園寺とは仲良くなったのだが、彼は非の打ち所のない少年だった。そんな彼を裏切ることができるわけがない。そして、そんな彼が一番凛にふさわしい。彼女の幸せを考えたら、彼と付き合うのがベストだろう。僕は潔く諦めた。


 そんな昔の話を僕は思い出し、凛に話した。


「たしかに、唯舞暉めちゃくちゃ必死だったよね」


「あれ? バレてた?」


「当たり前じゃない。だって告白した後にすぐに翔琉と仲良くなるんだもん」


「たしかにな。それはやりすぎだよな」


「まあでも、翔琉は一生の友だちになったんだから結果オーライだと思う」


「やっぱり、優しいな凛は。僕はそこに惚れたんだ。こんな時にこんな話ごめんな…それじゃあ、そろそろ市榮を呼んで、出発するか」


「急にそんな事言われたら恥ずかしいよ。まあ、と、取り敢えず行こっか」


「あー。もう私ここにいるので呼ばなくておっけーですよ」

 

 凛の後ろから市榮がニュルッと現れた。腕にはお土産屋さんの紙袋がたくさんかかっており、意味のないサングラスまでかけていた。


「これから出かけるってのに買い物するなよ。それに、何だそのサングラスは!」


「まあいいじゃないの。それにこのお土産、芽衣の分もあるんだからね。どうせ、あなた達は、お邪魔するのに手土産のこと一切考えていなかったでしょ?」


「たしかに。忘れてた」


「あはは、たしかに必要かもね」


「ほーら。だから、感謝してよね? あ、ちなみにこのサングラスは、スカウト防止のアイテムよ」


「は? なにスカウトって」


「芸能事務所とかモデル事務所とか、そういう類のもの」


「そんなのあるわけ無いじゃん」


「冗談よ、冗談。サングラスは紫外線対策」


「まだ春なのに?」


「私、ちょっとの紫外線でも目が焼けて赤くなるの」


「それは大変だな」


「咲さんは西洋の人のような目だから、きっとそうだと思ってた。日本でサングラスをかけたらイキっているとか、不良だとか悪いように思われるから大変よね」


「そうなんですよ。理解していただけて嬉しいです」


 確か、中学生の頃、海外に興味があった僕は、外国人のサングラスの使用率が気になり調べたことがあった。西洋人は虹彩にメラニン色素が少なく、それにより、光量が多く入り眩しく感じるらしい。緑色や青色の美しい目でも、メリットばかりではないのだなと思った。




 日は一番高い位置に昇り、季節は春なのに、初夏のような暑さがあった。市榮は片方の口角を上げ、ニヤリと笑った。


「何がおかしいんだよ」


「あれれ? 気づかないいの?」


「なんだよ。凛わかるか?」


「あー。サングラスのことじゃないの?」


「サングラス?」


市榮はサングラスのブリッジに中指を当てて上にスライドさせた。


「役に立ったとでも言いたいんだろ?」


「大正解」


「そんなこといちいち自慢するなよ」


「まあ、いいんじゃない? 咲さんもこの場を盛り上げるために言ってくれているんじゃないの?」


「いや、私は別に…」


「それは、まあ、ありがたいこと」


「だから、私は別にそんなつもりじゃないよ…」


「まあ、まあ、もっと咲さんは素直になりなさい。それと、唯舞暉は咲さんに当たらないの」


「「はい…」」


 一体いつぶりだろうか、他愛のない話で盛り上がるのは…ここ最近は、一連の事件のことばかり考え、絶えず気を張っていた。


 これが本来あるべき日常であり、僕には、幸せに暮す権利があったのだ。それがあの日、父と母が離婚した日に全て失われた。僕は、理不尽な運命に何度も恨んだ。けれども、なんとかしてそれを変えるために、ここまでなんとか生きてきた。その途中で多くの犠牲者が出てしまった。きっと彼らも『なぜ私なのだ』と言葉で表せない、憎悪を感じているだろう。しかし、死んでしまったことには、それを伝えることや行動を起こす事はできない。それができるのは生きている僕たちだけであると思う。だから、僕はいかなる場合でも諦めることはできない。



 それとは反対に、綺麗事を捨てて『僕には関係ない』と終わらせられたらどんなに楽なことか、また『死んでもいい』と素直になれたらどれだけの命が救えただろうかとも思った。


 僕が選んだのは、綺麗事の方だ。


 結局、人間は綺麗事に救いを求めるのだ。綺麗事を選ばなかった人間は逃げではない、本当の逃げは綺麗事を選んだ人間、つまり僕なのだ。


「なあ、本当に僕は卑怯だな」


「急になに神楽…怖いんだけど」


「あまり自分を責めないでね」


「なんか、雰囲気悪くして悪い」


「あ、もうすぐ妹さんとよく会っていた場所に着くよ」と凛が手を広げて言った。


「え? 家じゃないの…」


 凛は目をキョロキョロとさせ「い、いい忘れてた」と苦々しく笑った。


定期的に投稿できなくて、少しストレスですが、受験が無事に終わるまで我慢したいと思います(泣)

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

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