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23話 涙

 僕が目を覚ましたのは、到着十分前のことだった。


 市榮が僕の肩をゆらゆらと動かしたり、窓を見て足をばたつかせたりして、久しぶりの東京に興奮していた。僕は旅行から帰ってきたような気分だった。


 やがて新幹線はホームに入り、停車した。ぞろぞろとキャリーバックを持った人たちが出てくる。


「到着! わあー、やっぱり東京はビルばっかりだな」と目を輝かせる。


「静かに降りられないのかよ」とぼそっと呟いた。


「やっぱりテンション上がるね! そういえば、凛って子は何処にいるの?」


「改札付近で待っていると連絡来ていたよ」


 すると、市榮は改札まで突っ走ってしまった。


「ちょっと、そっちの改札じゃないよ」


 しかし、市榮の耳には届かず、そのまま改札を出てしまった。子供のようにはしゃぐ彼女に苛立ちを覚える。


「ほら、神楽。早く来て」


「市榮、そこの改札じゃねーよ」と声を荒らげて言った。


 彼女はポカンとした顔でこちらを向く。仕方なく、僕は市榮のもとへ行こうと歩き出す。すると、きれいな女性が目の前を横切った。タイプの女性でもないのに、彼女が見えなくなるまで僕は目で追ってしまっていた。


「何ボーッと突っ立ってるのよ。おおーい。神楽」


 市榮の声にハッとして再び歩き始めた。そして改札を出る。


「お前、ここの改札じゃねーよ。頼むから子供みたいに勝手に行動しないでくれよ」


「そうだったのね。ごめんね。久ぶりの東京に浮かれていたみたい。本当にごめんなさい」


「お、おう。分かれば良いんだ。そしたらここは西改札口だから東改札口まで地下通路で行こうか」


 それから、市榮は大人しく、僕の後に付いてくる。このように黙って歩けば綺麗でモテるだろうが、実際の彼女は口数が多く、ちょこまかと歩き回る子供のようなやつで、きっとモテないだろう。それの証拠に、先程まで、彼女は周りの大人全員から奇異の目で見られていたが、今はすれ違う大体のやつは彼女に見とれ、口を大きく開けている。


 僕としては、うるさくない綺麗な市榮のほうが扱いやすいのだが、どうも周りの目が気になって仕方がない。周りの大人から嫉妬のような怒りの目が僕に向けられ、『釣り合っていない』、『なんであいつが…』と言われているようで気分が悪い。もちろん付き合ってはないのだから、どう思われようが関係ないといえばないが、せめて、睨むのは辞めてほしい。


 そして、あれこれ考えているうちに、東改札口に出て、凛と合流した。


「あ! 唯舞暉久しぶり。あのときは大変だったね…」


「そ、そうだな…」


 久しぶりに会ったので何から話してよいのか分からずお互いに顔を合わせたまま、暫く沈黙が続いた。


「あー。もう。こういう気まずい空気キライなので、私が喋らせてもらいますね」と市榮が勢いよく喋った。


「びっくりさせるなよ」


「いや、だってあなた方がいちゃついてるので」


「「それは違う!」」と思わずシンクロした。


「ほらね」


「だいたい、あなた誰よ」


「これは申し遅れました。(いち)()(さき)です。神楽とは小さい頃からの友人です。それと妹さんとも知り合いです」


「なるほど。そしたら私も自己紹介するわね。私は綾瀬凛。唯舞暉とは高校の時に出会って、そこから今まで仲良くさせてもらってるわ。今回妹さんのことについて役に立てたらなと思ってる」


「り! そしたら早く連れて行ってくださいなー」


 凛は眉を顰め、僕の方をちらっと見た。


「あなた変わった人ね…」


「そ~ですかね? まあたまに言われたりもしますかね。それよりそれより、早く行きましょうよ。私待てないです」


「あなたちょっと騒ぎすぎよ? 大人しくしてもらえる? 私、少し唯舞暉と話がしたいの」


「あなたじゃなくて、咲って読んで下さいよぉー」


 なんだろう、この市榮の態度は…気味が悪いな。何を企んでいるのだろうか。


「はぁー。わかりました。咲さん。少し唯舞暉と二人で話す時間をいただけるかしら?」


「いいですよぉー。それではごゆっくりどうぞ」


 凛の怒りの目が僕に向けられる。たしかに、市榮はおかしなやつで、扱いづらいし、無礼なやつだ。凛に彼女を好きになれとは言わないが、表面上の付き合いでもいいので上手くやってほしい。しかし、今の凛の態度は正直僕でもキツイ。これから上手くやっていけるかとても心配だ。


「ちょっと。なんて子を連れて来たのよ。私、あの子苦手なんだけど…」


「凛だけじゃない。僕もだよ」


「なんだ。てっきり、唯舞暉が容姿だけで判断して適当に付き合った子なのかと…」


「僕はそんな生半可なやつではないよ。てか、そう思ってたの?」


「そんなわけないよ。ただなんか心配になっただけよ。まさか唯舞暉があんな子と知り合いなんて…」


「てか、あいつは塾が一緒なだけでそんな親しくはない」


「そうなの…」


 僕は凛が少し悲しそうな顔をしていたのを見逃さなかった。きっと相当心配させてしまっていたのだろう。西園寺の死からまだあまり経っていない。きっとまだ整理がついていないのだろう。そんな彼女を一人にさせてしまっていたことを後悔する。彼女の傷が瘉えるまで寄り添ってあげるべきだった。西園寺は凛の彼氏だった。


 もしかしたら、凛はどこかで僕のことを恨んでいるかもしれない。僕は間接的に西園寺を殺したようなものだ。そんな僕にできることは、この奇妙な現象を突き止め、解決する。そして、これからずっと凛に寄り添うことだ。


「凛、これからは僕が責任を持って君を守るよ。必ず。だから、一緒に戦ってほしい」


「あ、ありがとう。力になれることは全てするわ。彼のためにも…」


 凛は、ぽろぽろと大きい雨粒のような涙を流した。


 僕はそれを横目で眺めていた。



受験勉強が忙しく、なかなか投稿できなくて申し訳ないです。次の話ももしかしたらかなり先になるかもしれません。

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