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22話 新しいスタート

 昼間と同じ天井を見つめながら、ため息を付いた。あの後すぐ市榮は帰り、僕は一人寂しく病室へ戻った。明日も検査があり、異常がなければ明明後日中には退院できるらしい。


 結局、妹の情報を何一つ掴めないまま、だらだらと時間だけが過ぎていってしまった。現在の時刻は午後七時。三重では、必ず計画的に進めると心に誓ったのに、それを立てることすら出来なかった。自分の力不足を痛感した。やはり一人では厳しいのか…


―ピロン


 真っ暗な病室に小さな光が灯る―


 どうやら、新着のメッセージが届いたようで、僕は机の上に置いてあるスマホに手を伸ばした。ホーム画面に『三十件のメッセージ』と表示され、思わず笑みがこぼれた。メッセージを確認すると、数時間前から同じような文章ばかりが送られており、急を要するものだった。急いで返信しようと文字を入力した時、電話が鳴った。画面には『不明』と表示されていた。おそらくそれらのメッセージを送ってきた凛がしびれを切らして、ついに電話をかけてきたのだ。横にスライドしてスマホを耳に当てる。


―ザー


 ノイズが酷く、うるさいので、スマホから耳を離す。スピーカーモードに切り替え、机に置く。「もしもし。凛か?」と大声で聞こえるように言った。しかし、何も返事がなかったので、電話を切った。


「ツギハ…」


 電話を切る直前に誰かの声が…いや、僕の思い過ごしか。そもそも、それはただの悪戯電話に過ぎない。凛からの電話ではなかったのだ。そう深く考えることはない。


 僕はまたベッドに寝転がり天井を見つめる。


 妹が何かの不幸に巻き込まれていないことを願う。メールの返信が遅いのは、そういう気分ではなかったのだろう。それか、市榮のメールが妹の気分を害する内容だったのかもしれない。市榮のことだ…あり得る。とにかく、メールを返さないことが危険であると考えるのはあまりにも安直すぎる。というか、あいつら今更メールでやりとりしているのかよ。


 僕は凛からのメッセージを思い出し、起き上がりスマホを取った。


―コンコン


「失礼します。神楽さん、先程綾瀬さんからお電話がありまして、電話をかけてほしいとのことです」


「そうですか。わかりました。ありがとうございます」


 僕は立ち上がり病室を出る。


「綾瀬から直接僕にかけてくれれば良いものを…すみませんね」


「いえ、そういえば綾瀬さんが先程かけたが繋がらなかったと仰っていましたよ」


「ああー。先程悪戯電話が掛かってきていたんですよ」


「あら、それは大変でしたね」


「本当に勘弁してほしいもんですよ。あ、僕待合室に行くのでそこ曲がりますね」


「色々と気を付けてくださいね」


 僕は看護師さんにお礼を言って、待合室へ向かった。連絡先から『綾瀬凛』を探し、タップする。


「もしもし。唯舞暉?」


「もしもし、ゴメンな、電話してくれたのに出られなくて」


「気にしないで、それより、メッセージ読んでくれた?」


「ああ、見たよ。それで…妹のところに連れて行ってくれるのか…」



 僕は五日前に荷ほどきしたが、東京に戻るために荷造りをする。


 昨日の検査の結果、担当医からの退院許可が降り、すぐにここに戻ってきた。本来ならば二日程で退院できるが、僕の場合、頭の怪我もあったので少し入院が長引いた。幸いにも、凛が妹の居場所を知っていて、連れて行ってくれるとのことだったので、入院中安心して休むこと出来た。


 そして、大家さんがとても寛大な人で、このアパートの解約を快く承諾してくれたので、スムーズに新幹線の予約や、何処に泊まるかなどの予定を立てることが出来た。東京には戻ることになったが僕はあの家に帰るつもりはない。東京では新しいアパートを探す予定だ。それを見つけるまで、凛の家に泊まることになった。


 そのことを市榮に話すと、しつこくついてくると言ったので、一緒に行くこととなった。最寄り駅から東京駅まで約三時間、もう既に切符は買ってあるのであとは、電車が来るのを待つだけだ。僕は配達業者にほとんど荷物を預けたので、手荷物は少ないが、市榮は三日ほどの滞在予定なので、荷物は多い。


 時間がある今、市榮に聞きたいことがあったので、僕は彼女に話しかけた。


「その…すごく気になっていたんだが、本当に何処で妹と会ったのだ?」


「はあ…もうしつこいわね…まあ良いわ。別に言っても損することないし…」


「な、なんかごめんな」


 なぜ僕が謝らないと行けないのだ、しかし、それで教えてくれるのならいいか…


「ええと、確かあの時妹さんが友達と一緒に三重へ旅行に来ていて、道に迷っていたの、それで仲良くなったの」


「お前な…マジで言えよ」


「やっぱり駄目か…実はね妹さんは…いや、芽衣は幼稚園の時の友達なのよ」 


 妹の記憶が蘇ったものの、名前だけが思い出せなかった。しかし、市榮が『芽衣』と呼んだことから、妹のフルネームは神楽芽衣だと分かった。


「幼稚園? てことは、小学生からは知らないのか」


「ああ、それは神楽と同じあの有名な塾に通うために渋谷周辺に引っ越したのよ」


「そういうことか…でも、市榮すぐに塾を辞めて、三重に行ったのはなぜだ?」


「家の都合ってやつよ」


「そ、そうか…」


 意外にも芽衣は、そう遠くない所で暮らしていた。僕が三重に行くのは逆効果だったようだ。この後無事に会えると良いのだが…


 新幹線に乗り込み指定された席に座る。コンビニで買ったおにぎり二個とスープとコーヒーを机に出し、食べ始める。横に座っている市榮は買った朝ごはんを食べる前に寝てしまった。朝早く出発したので仕方ないことなのかもしれないが、せめて朝ごはんを食べた後に寝てほしかった。


 僕も寝ようかな―これからもっと危険な目に合うこととなるだろう。それを考えると、今は休むべきだ。それに、着いたらすぐに凛と合流して芽衣に会いに行くので、今日は寝られないかもしれない。


 そして、あの電話の後ずっと気になることがある。それは、凛が妹の存在を知っていたことだ…

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