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13話 不公平と悲運

神様なんていたら、こんな不公平な世の中にしない...。


 ドクンと心臓が脈を打ち、冷や汗をかく。驚愕と恐怖のあまり思考が止まり、放心状態になる。鳥肌が止まらない。そしてひたすら時間が過ぎていく。


 あの出来事はただの夢ではなかったのか。この手跡を見るとまるで本当にあったように感じる。


 もし本当であれば、何故死んだはずの私は生きているのだ――此処は何処なのだ――現実なのか?


「着替えましたか?」


 そうだ。着替えようとしていたのだった。看護師さんを待たせてしまっていたので急いで新しい病衣を着る。首元を隠すため、適当にタオルを取り首に巻く。


「はい。どうぞ」


「ありが――。きゃぁーーーーー」


 看護師さんが急に叫び、その場にいる人の視線が全て彼女に向くタオルを巻いたもののやはり見えてしまっていたか、そう思い、誤魔化すための言い訳を考える。しかし、看護師さんの目線の先にあるのは私の首元ではなく、渡した病衣である。


 段々と顔色が悪くなり、生まれたての子鹿のように小刻みに震えている。目には涙がいっぱいに溜まっている。


「どうしましたか?」


 きっと私の責任であるのに、まるで何も知らないかのような無責任な言葉をかける。


「こ、これを……。どこ、どこで……?」


 彼女は病衣を指差しながら必死に絞り出した声で言った。血も凍りつくほどの恐怖が病衣にあるのか。しかし、たかが病衣だ、恐れることはない。私は落ちているそれを拾い上げた。見た感じ何もなく、至って普通だ。これの何処に恐れを感じたのか、全くわからない。看護師さんは未だに体が震えていて、一点を見つめボーっとしている。


「何もありませんが……」


「そ、そんな……。なか、なか……」


「え? なか? はぁ……。裏返せばいいの?」


 私は少し苛立ちを覚える。彼女がみたのはきっと幻だろう。そう思い、病衣を裏返した。 その正体が姿を現した時、今までに感じたことのない不気味さを感じた。この世のものとは思えない。看護師さんが蒼白な顔色になっていたのも理解できた。


「すみません」


 一言だけを言って、それを持ち、病室を出る。


「ちょっとー。芽依何処に行くの?」


 病室の外で待っていた美優が言った。私が無視したせいか、美優は心配して後ろについてくる。無視したのは、悪いが、正直今は一人になりたい気分なので、ついてこられては困るし、鬱陶しく思う。


「ついてこないで!」


 なんてひどい奴なのだ。自分でも驚いている。看病までしてもらって、そんな酷い言葉を投げつけるなんて。これで友達辞められたら、自分のことを一生恨むだろうな。そうでなくても恨んでいる。


「そうだよね。大変だったから……ゆっくりでいいから一緒に歩んでいこう」


 本当に美優は人間なのか。もっと私に冷酷な態度をとってもいいくらいのことをされているのに。さらに自分が憎く感じる。




 例の自転車事故があった道を駆け抜ける。自転車ほどの冷たい風は感じられないが、今日は風が強いので、走るだけで十分だ。左手にはしっかりと病衣を握りしめている。これをなんとかしないといけないと思い、堤防から川辺に降りて、腕を振りかぶってそれを投げた。ゴミを川に投げてしまった。しかし、何故か罪の意識は感じない。


「はっはっはっはー」と口を大きく開け腹の底から声を出して笑う。


 いい気味だ。全てはあの夢に出てきたシャドーピープルが悪いのだ。私は悪くない。そう自分に言い聞かせる。




 薄暗い部屋の隅っこにあるベッドに横たわる。もう一層の事死んでしまいたい。何故こんな目に遭わなくていけないのか。神様は私から両親を奪うだけでは物足りないのか。もっと過酷な試練を与えて何になるのだ。


――ブーブーブー


 携帯が鳴る。画面には非通知と書かれていた。何処からだろう。ベッドから手を精一杯伸ばし、スマホを取った。


「もしもし」


「こちら〇〇総合病院です。()()様のお電話番号でお間違いありませんか?」


「はい。すみませんが、忙しいので切ります……」


「いや、ちょっと待ってください。大事なお話があります」


「はぁ。そうでしたら、ここで言って頂けますか?」


「今主治医の河村に変わりますね」


 大事な話ってなんだ。どうせ戻ってこいとかだろう。


「お電話変わりました。河村です」


「手短にお願いします」


「分かりました。単刀直入に言いますと癌です」


「は? いや。すみません。どういうことですか?」


「詳しくは病院に来ていただいてからお伝えしたいと思いますので、今日中にきt――」


――ツーツーツー


 私は電話を切った。そんな嘘信じられる訳がない。そこまでして、私を病院に戻らせようとするなんて、医者も汚い手を使うようになったのだなと思った。


――ピンポーン


 はぁー。次はなんだ。まさか病院の関係者が来たのではないだろうな。いや、先程電話を切ったばかりなのだからありえないか。


「はーい。今開けます」


 ドアを開けるとそこには誰もいなかった。ピンポンダッシュかよ。そう思いドアを閉めようとすると下で何か引っかかる。私は目を疑うような光景を目の当たりにする。なんとそこには川に投げたはずの病衣がある。しかも、投げる前に見た時よりも、酷くなっていた。シャドーピープルだと思われる手がたくさん付けられており、不自然な笑顔が浮き上がってきた。それは段々と目の前で物体化してきて、完全なる姿になった。


「きゃぁーーーーー」


「夢で会った以来だな」


「や、やめて……」


 やはりあれは夢だったのか、しかし今は現実だ。本当に逃げないと今度こそ殺される。 ドアに向かうためシャドーピープルの横を通った、その時ほのかに甘い香りと杉の匂いがした。




甘くて杉の香りとは???

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