10話 亡霊の怨念
なぜ左腕があるのだろうか.....。
これからどうなるのか
思いがけない光景を目の当たりにして、気を失いそうになる。動悸が激しくなり、その音が部屋中に響く。
随分と時間が経っているせいか、腐敗がかなり進んでいる。死臭も強烈だ。爪は剥がれ、皮膚は黒く溶け、体液はドロッとした状態で固まり、神経や血管、筋肉、脂肪がむき出しである。
警察は晶を殺した犯人を血眼になって捜している。これを持っていると知られれば、間違いなく僕は警察行きだ。そうならないためにも何としてでも隠蔽する必要がある。まずこの死臭を消すにはどうすればいいのか。死臭なんて簡単に消せるものではない、隠すのは諦めて埋めるか……とはいえ、万が一掘られでもしたら、言い逃れはできない。こんなことに苦慮するなんて、まるで殺人犯ではないか。
やはり警察に言うべきか……。
色々悩んだ末、怖くなり、放置する事にする。クローゼットの中の服や鞄などは諦める。もし後々見つかっても“気づかなかった”と言い通せばいいことだ。
「フフフフフーフン♪フッンフッン♪」
鼻歌交じりに他の物を片付け、気分を紛らわせる。大好きなAdaさんのOdaを聴くとテンションが上がる。
本棚にある赤本や参考書、教科書を全て段ボールに入れる。「意外と本棚大きかったのだな……」と独り言を言う。
――オマエノセイダ、オマエサエイナケレバ
テレビを切り忘れたのか……。
ていうか僕テレビつけたっけ?一旦作業を中断して立ち上がり一階に向かう――「呪ってやる。呪ってやる――」と唯舞暉に何度も誰かが囁いた。
僕の前には晶がいた。傷だらけの肌に白い服を見に纏う。左腕の部分だけが薄べったく、ゆらゆらと揺れている。
ここにある左腕を探しにきたに違いない。
「晶。すまない。左腕返すから、帰ってくれ」
「許さない。許さない――」
晶は“呪ってやる”、“許さない”を何度も何度も繰り返して言う。そんな晶が怖くなり、逃げてベッドの下に身を潜ませて息を殺す。ベッドの下からは晶の脚が見える。何度も何度も行き来している。どうか見つからないようにと願う。
すると、奴は僕の真横で脚が止まり、つま先がこちらに向く。膝を曲げ、手を床につけ、ベッドの下を覗こうとする。
もうお仕舞だ。そう思った。しかし、奴は覗くのを途中でやめて、立ち上がる。そして消えた。奴の気配はなく、この危機をなんとか乗り切れたと安心する。
息を腹一杯吸い、吐く。そしてベッドにダイブした。
「よかったー。マジで危なかった――」と思わず叫んだ。
引越しの準備を再開し、残りはベッドの解体のみとなり、シーツを剥がそうと手にかける、するとそこには見覚えのない小さくて黒いシミがあり、じっと見つめるとそれは徐々に大きくなり、はっきりとした黒色になった。その形は晶そのものだった。怖くなり、後退した。
黒いシミの晶の顔は眉間に皺を寄せ、口を大きく開けてる。
何かを叫び訴えかけているようだった。
――呪う、呪う、許さない、許さない
晶の声が頭に響く。
「なぜ恨まれなきゃいけないのだ! 僕は晶を殺していない!」
――地獄に堕ちろ
「晶こそ堕ちればいい。そしてもう二度と僕の目の前に現れるな!」
そう言い放つと奴の声は聞こえなくなった。いい気味だ。あいつが動かしたのか、左腕がクローゼットから出ている。
シミがついたこのシーツを新居に持っていくのは気味が悪いのでそのシーツで左腕を包みゴミ袋に入れる。
○
リビングの固い床で寝たせいか、身体中が痛い。
引越し業者の方が来たので家具や段ボールなどゴミ以外を預ける。全ての物がなくなると家族と過ごした思い出も全てなくなったように感じる。
引越し業者の方が去った後、すぐに例のゴミ袋を捨てに行った。これでもう安心だ。新居で新たな人生を歩む。そう意気込んだ。
一応第一章はここまでです。
次は第二章にはいりますので、それもまた見ていただければ幸いです。




