太守の一族
太守の子供たちです。
朱姫を正室にする。と宣言した時は家臣もみな驚いた。しかし、南の国はもうない。返す訳にもいかない。
しかも、朱姫は朱雀を守護神に持っていた。王家の妻としては、ふさわしい。しかし…
何だか納得が行かないまま、婚儀が行われ、すぐに五人の子に恵まれた。
長女の一の方(一の姫の母)は、見事な黄龍を守護神に持ち、次の太守と目されていたが、実母の朱姫と反りが合わず、王家を出て結婚。一の君と一の姫をもうけるが、早くに亡くなり、二人の子どもは太守が引き取った。
次に生まれたのが長男の現太子で、守護神は不明である。寡黙だが実直な人柄で、朱姫に溺愛されており、朱姫の選んだ牛姫を娶った。子は義貴1人。
次男の二の君は、身分の低い巳の殯を娶ったため、一時期勘当されたが、一の方没後王家に戻った。二の姫の父。
二の方…次女。三の姫の母。
三の君…三男。四の姫、五の姫の父。
とまあ、ざっとこんな家系である。
今日はみな勢揃いし、太子を先頭に着飾って控えている。
一同をぐるりと見渡して、太守は隣の朱姫に低い声で言った。
「姫は?」
朱姫は一瞬眉をひそめたが、すぐに笑顔になって答えた。
「姫?ああ。一の姫ですか?使いはきちんと出しております。あの姫は愚鈍ですから。」
おほほほほ。と扇で顔を隠して笑った。
太守は苦虫を噛み潰したような顔をした。
朱姫はそんなことなど意に介さず、
「それより陸奥の守さま、ご覧ください。うちの四人の姫たちの美しいこと。陸奥の守さまの太子さまのご正室にいかがです?」
陸奥の守は思わず苦笑いした。
(相変わらず、この御寮人は、自分の長男以外は、駒としか思っておらぬ。)
微妙な空気が流れ、それを断ち切ろうと朱姫が酒宴に移るよう侍女に申し付けようとしたその時、一陣の風が大広間を吹き抜けた。
「おじじさま、遅くなり申し訳ございません。」
白の衣装を纏った一の姫が現れたのであった。