古き国のものがたり
今でも辛いことがあると、目を閉じてあの方の微笑みを思い出す。
ああ、そうだ。私はとても幸せな時間を過ごしたのだ。
神々が住まう高天ヶ原と人の住む国の間には、古くからいくつかの王国が存在し、神と人を結ぶ役目をしていた。
その中でも最も古い王国の一つ、中つ国には美しい五人の姫がいた…
エピローグ 一の姫は愚鈍な姫
「ほんに愚図な姫だこと」
ピカッ 稲妻が走る
「なぜ、扇を回すことができぬ?このように簡単なことが!」
ガッ どこかで雷が落ちたようだ。
ひっくひっく
幼い姫が厳しく叱責され、泣いている。
舞が上手く舞えないのであろう。落ちた扇を拾った格好で涙をこぼしている。
姫が泣くごとに雨音が強くなってきた。
「ええい!泣くでない!うっとおしい。この雨はそなたの嫌味か?」
眦を上げて怒るのは、姫の実の祖母。太守の正室、朱姫である。かなり年はいっているはずだが、華やかで美しい。
姫はまだ立ち上がらない。
朱姫はその姿を見ると溜め息をつき、吐き捨てるように言った。
「…もうよい。そなたには愛想がつきた。ただし、愚図なお前に一つだけ教えてやろう。そなたが泣けば、どういう訳か、大気が乱れる。さすれば、人の国が迷惑蒙る。」
姫が顔を上げた。驚きのあまり目を見開いている。
一呼吸おいて、朱姫は言い放った。
「愚鈍な何の役にも立たぬ姫よ。もう二度と泣くでない。迷惑じゃ。この人殺し!」
姫はぴたっと泣き止んだ。
この日から、姫は喜怒哀楽のうち、哀を捨てた。