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九話 私、粗暴なのでしてよ・予行

 ダメだ、とフェリシアは一人部屋で悩む。

 服を汚してだらしなくなる事には一応成功したが、肝心のアルベルトは何とも思っていないようだった。


「まさかロドニーの言っていた様に、そう言った方がお好みだったのかしら……。いえ、だらしなさが足りなかったのかも知れない。まだ他の手もあるし、婚約まであと一月半はあるから前進あるのみよ」


 王国では季節を四つに割り更にそれぞれを三つの月に分けている。

 今は春の季節第二の月も半ばなので、春の三月下旬のフェリシアの誕生日に合わせた婚約パーティーまでにはまだ少しの間猶予があった。

 

 婚約までに振ってもらえばいいのだからとフェリシアは気を取り直すが、すぐに意識が昨日のアルベルトの手が触れた部分に向いてしまう。手にも頬にもまだ熱が、髪にも唇にも触れられた感触が残っている気がする。

 あの時口に放り込まれた甘酸っぱいラズの実の味が蘇って来ると、実の色と同じくらい赤い髪をしたアルベルトのスカーフェイスの優しい微笑みを思い出してしまう。

 あの手のぬくもりも笑顔ももう少しで毎日身近に感じられる物になった筈なのにと思うと、偽りの気持ちでもいいからこのまま婚約式を迎えたい思いに駆られてまた涙が込み上げる。けれどそうするとあの占いが頭の中で繰り返されるのだ。


《あんたは嫉妬に狂って婚約者の真の想い人を悪逆非道の限りを尽くして陥れる、乙女ゲームの悪役令嬢》

 

 フェリシアは頭を振った。


「ダメよ、そんなの。アルベルト様の心を縛りつけて、その上愛する人に酷い事して更に傷付けてしまう未来になんてしたくない。婚約式を迎える前に何としてでも振って頂かなくては」


 自分を奮い立たせて次の策へと移ったフェリシアは、小説を片手に猛特訓を始めた。


 翌日、一度自宅に戻っていたロドニーがまたレイフォード家にやって来ていて、お茶の時間にフェリシアの部屋のドアをノックした。


「フェリシア、一緒にお茶はどうかな? 部屋に運ぶ?」


 部屋の外で返答を待っていたロドニーは、次のフェリシアの発言に度肝を抜かれた。


「いらねぇですの!」


「い、いらねぇ……?」

 淑やかな従姉妹のあるまじき言葉遣いに驚愕し、ロドニーは許可をもらう前に部屋に飛び込んでしまった。


「なに⁈ 誰? 今、君の他に誰かいた?」


「いねぇですわ。ロドニー、許可する前に女性の部屋に入るなんて、ふてぇやろぉでしてよ」


 淑女に不釣り合いな発言をした紛う事なき本人フェリシアは、ちょっぴり怒った様に口を尖らせていた。ロドニーは苦い顔をする。


「……なんだろう、その不安になる不思議な言葉遣いは」

「特訓したのよ、アルベルト様に振って頂く為に。乱暴な言葉遣いをすればきっと愛想を尽かして下さると思って。一日かけて習得したから、もう実践してもでぇじょうぶだと思って試してみたの。どう? 粗暴でしょ?」


 自信ありげに胸を張るフェリシアに、ロドニーは苦笑いする。


「君は本当にあらぬ方向に一生懸命だね……何で学んだらそうなっちゃうんだろう」

「この前の絵画観賞会の時に貸して頂いた本よ。この『淑女による他を出し抜く悩殺法・言葉遣い編〜ともすれば粗暴なギャップで、あれ? こいつ……他の女と違う? と高ランク貴族をメロメロに〜』を大いに参考にしたわ」

「誰から借りたのそんな本! ちょっと連絡するから教えてくれるかな!」


 ロドニーは本を取り上げてフェリシアの交友関係に不安を覚え溜め息を吐いた。そんなロドニーを尻目にフェリシアは特訓の成果に手応えを感じて満足げに微笑んだ。


「ロドニーが驚くくらいなんだから、アルベルト様だってきっと呆れるわね。このまま続けて更に粗暴さを磨いて、必ず振られてやんよですわ」


 その日からフェリシアの特訓は続き、更に秘策まで用意してアルベルトがやって来るのを待ちわびた。

 そして四日後、ついにアルベルトが庭を歩いて来るのを認めて、いざ決戦とばかりにフェリシアは部屋を飛び出した。


「アルベルト様!」

「やあ、フェリシア。どうしたんだ走ってきたりして」

「私、今日をずっと待ちわびてましたの。アルベルト様が早くいらっしゃらないかなって、毎日毎日お会いしたくて待ち遠しくて」

「……そんなに、か? そうか、それは悪かった」


 アルベルトはいつもより更に柔らかく笑った。もっとも、闘志を燃やすフェリシアには意識外の事だったが。


「アルベルト様、今日は庭を歩きませんこと? 春も半ばで花も盛りとばかりに咲き誇っていて見頃ですから」


 フェリシアは提案を快諾したアルベルトと連れ立って、丁寧に手入れのされた芝を歩き華やかに彩られた花壇を愛でた。

 知らぬ者が見れば仲睦まじい恋人達のデートシーンだろうが、フェリシアにとっては特訓の成果をぶつける勝負の時である。そしてアルベルトにとっては婚約者としてこなすべき義務の時間であろう、とフェリシアは思う。

 どこで仕掛けるか、と機を窺っているとアルベルトがふと足を止めた。

お読みいただきありがとうございます。

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