八十一話 【ガートルードの暗号日記:十七歳・春 その二】
春の第三の月中旬
許せない、フェリシア。
私のここまでの努力を踏みにじってアルベルト様を掻っ攫うなんて。
絶対にアルベルト様からあんたを引き剥がしてやる。
とは言ったものの時間はなく、取れる手立てもすぐには思いつかない。
手駒だったロドニーも恐らくもう役立たないし、それどころか離反したかも。
ふわふわお嬢様のフェリシア一人で港まで追って来れると思えないもの。きっと何かしら手助けしてるわね。
カミルも完全にあっち側だし懐柔は無理め。
今現在ガートルードが接触出来るフェリシアの周りの奴はそれくらいだったのに、厄介ね。
ニコルは手駒にしていられるけど……自領に戻ってきちゃった今、二人を引き離す有効な使い道はない。
念を入れた事が裏目に出るとは……さっさと魔法使っとけば良かったかな……。
今のところ八方塞がり。
でもここで諦めるなんてしないわ。
お気に入りのキャラ達に設定無視したもしもの世界で学園ドラマさせたりするのも大好きだけど、こういう設定やキャラの背景を絡めた上で世界観を守りつつ、それってありそうじゃなぁあい⁈ なストーリー展開させるドリーム二次創作するのが私の楽しみなんだから。
だからこの状況だって逆に燃えるってもんよ。
必ず私の思い通りの展開に持ち込んでみせる。
妄想女子舐めんな!
フェリシアをこの世界から消す。
その為にはどうすればいい?
消すって何?
殺る?
それは私も退場コース。
それはないとして……ここは今の私にとっては現実、とんでもご都合展開は難しい。世界の設定は弄れない。
接触して直接的に手を下すのが容易ではない現実を鑑みた上で、実現可能な手がゲームの展開上に何かないかしら……。
ゲームの舞台は、隣国と燻り続けた火が消えたばかりっていう設定のこの国。
停戦はしたけれど、そこから早数年、帝国との和平交渉は遅々として進んでいない。これはどうも政策転換した帝国側の都合のようだったわね。ゲーム上関係ないけど。
そんな束の間かもしれない平和の最中婚約するのがあの二人。
それが春の終わりの出来事、そこからゲームが始まる。
ゲーム通り婚約式に参加すればフェリシアに接触は可能だけど、それじゃ手遅れなのよね……。
その後は……失意と切ない回想が繰り返されつつ、新しい出会いと共にガートルードのストーリーが進んで行く。
悲しくも希望に満ちた夏のお話。
ガートルードが接触出来るのは攻略キャラのロドニー、カミル、ニコル、オスカー、それに隠しキャラの元皇子。
後は変態薬売りと各種モブ達。
ロドニーとカミルは無理にしても、他のキャラは今でも存在しててある程度決まった行動を取ってくれるようだから、利用は出来そうね。
だけど当然フェリシアには近づけない。
だってあいつ脇も脇だし。どうしたものか……。
キャラ以外の所では、ストーリー上直接的には何の関係もないけど、夏の初めにこの国に王女が誕生する事で帝国との和平が進む。
帝国の幼い第二皇子と婚約話が持ち上がり、それまで対外政策として軍事力を振りかざし覇道を行く強行姿勢を取ってあちこちで戦争仕掛けてた帝国だけど、昨今の他国の同盟事情を鑑みて融和に舵を切ろうとしていたから、渡りに船とばかりに話をまとめて講和条約締結までトントンと進んで行く。
騎士設定を生かす気のない平和な世界への邁進。
平和は良いことだわ。生きてないけどね、騎士設定が。
完全に、騎士って響きとビジュアルかっこ良くね?
ってくらいで乗せたお飾り設定ね、ありがち。
でもまぁいいでしょ、平和って良い事だから。
ただ、その平和に向かって行く中で憂き目にあったのが第一皇子の隠しキャラサフィール。
次期皇帝を定める帝位継承会議当日にそんな話しになったもんだから、それまで戦績と強行姿勢を貫きたい保守派の有力者の抱き込みで優位だったのに、融和政策に転換した国で次の帝位につく可能性は限りなく低くなった。
さらに戦闘狂の黒豹と揶揄される好戦的な性格と生母の出自の低さから、先の戦争の責任を被らされて地位を剥奪された上で自国を追放される。
それで遍歴の旅に出て……っていうのが外交官のオスカーのストーリーを進めてるとちょいちょい読み物として挟まって、後の隠しキャラ解放イベに繋がってたけど、本当これ読むだけだからグダる部分だったわ。
読み飛ばしてたらいざ隠しキャラ解放して、
どうも! サフィールです! 言われても、
誰や! ってなったことでしょうね。
それ以上に
何でお前だ! って思ったんだけ——
そこまで書いてガートルードはペンを置いた。
口許に手を当てて、じっと自分の綴った字を見つめて、そして呟く。
「……なるほど?」
ガートルードは日記に綴った単語をトンッと人差し指で叩いた。
「サフィール、継承会議」
ガートルードはトン、トンと単語を順番に同じように指差して行く。
「王女の誕生、婚約、融和、帝位、剥奪……オスカー、あんたは上昇志向の強いパリピな野心家外交官そして……」
トンッとガートルードは一際強く日記に指先を叩きつけた。
「あんたは血筋も高貴な公爵家のご令嬢」
人差し指の下にあるフェリシアの文字を抉るように強く押さえつけて、ガートルードはにぃっと笑った。
「……お待たせフェリシア。シナリオは決まったわ。私が今度こそあんたをアルベルト様の側から追放してあげる」
ふふふふと低く笑い声を漏らしながら、ガートルードは誰にともなく呟く。
「やだ……これじゃまるで、私の方が悪女みたいね」
一頻り静かに笑ってふーっと息を吐いたガートルードは、ふと、夜を映す窓にランプの灯りが揺らめいているのに気づき立ち上がった。
締め忘れたカーテンに手をかけて、暗い窓にぼんやり映り込んだ自分の姿を見る。
「……上手く行くかはわからないけど、今の私にはこの瞳があるんだから。やってみない事には何も始まらないものね」
ガートルードは呟いて、窓の中から青紫の瞳でこちらを見ている女性を指でなぞる。
「見て……この艶やかで枝毛も無いサラサラの黒髪。手入れに必死にならなくたって肌荒れ一つないつやつやの肌。充血なんて無縁の青い瞳は透き通ってキラキラで、唇はうるうる、ほくろだって色っぽい。ほら、とっても綺麗。今の私はこの綺麗な女の子」
ガートルードは、ランプの灯り揺らめく窓の中に浮かび上がる女性を見つめて囁く様にいった。
「だから、始まる前から諦める必要なんて、もうないのよ」
お読みいただきありがとうございます!
ただでさえふわっとしてたのに、更にふわっとした設定になっていくし、センスが足りない(塗り絵の配色に2時間悩んで結局やめて落ち込む人間)ので服装だとかには相変わらず言及できないまま進んでいきますがお付き合い頂けたら嬉しいです。
次話からやっと二部に入りまぁす。




