七話 まずは策謀を巡らせますわ
そう意味はありませんがここから二章(章に分かれてるってなんかカッコいいからってだけ)
カリカリと、与えられた部屋の机に向かって、ロドニーは税収や地代の細かく記載された資料から数字を書き出している。
気弱そうな見た目通り、一応騎士として貴族のお情けで叙任されてはいるが剣の腕前には自信がないので、勉学の方は優秀だった事を幸いに領地経営の方に精を出そうと早いうちから励んでいた。
今日もいつもと同じ様にそうしていると廊下をパタパタとかけて来る音がして、ノックもなく突然バターンッとドアが開けられた。
「ロドニーーーー!」
「わぁあ! なになになに⁈」
見た目通り気弱なロドニーはいきなり飛び込んで来たフェリシアに飛び上がって驚いた。拍子でインク瓶が揺れて中身が飛び散り羊皮紙を点々と染めた。
「ロドニー! 私閃いたの! 私、振られるわ!」
駆けて来た為か閃きに自信を持っているからなのか、頬をほんのり桃色に染めて目を輝かせているフェリシアに、どんなロジックがどう構築された結果の言葉なのかわからないロドニーは苦笑いを浮かべる。
「フェリシア……どうしたの急に。何を閃いたんだろう?」
「アルベルト様との婚約解消の件よ! お父様に頼みに言ったんだけど私どうしても言えなかったの。だって本当は……そんな事したくないから……」
「……うん、そう……だよね」
ロドニーは書きかけの書類を一旦片付けるとフェリシアをソファへ誘導した。
「それでね、考えたの。どうしたら解消出来るかなって。それで閃いたの! 私に重大な非を作って、アルベルト様の方から振って頂けば良いんだわって!」
「ああ、そういう意味の振られるだったんだね」
並んでソファに腰掛けた興奮気味のフェリシアの話を、ロドニーはいつもそうしてきた様に時折まとめてあげながら黙って聞いている。
「なるほどね。でもどうしたら振ってもらえるか分からないから相談しに来たと」
「そうなの。どうしたらいいかしら」
口許に手を当ててフェリシアは困った表情を浮かべる。ロドニーは少し考えてから答えた。
「それは……一番早いのは不貞行為だと思うけど……」
「——! ふ、不貞……!」
「でも、従兄弟としては君にそれをお勧めは出来ないし、それにまだ正式に婚約した訳じゃないから、そこまで行かずとも解消に至らせる事は可能かなと……。例えば結婚とか考えられなくなるくらい嫌われる、とか? そうしたら向こうから断りが入るかも」
「嫌われる……」
いくら心から想われていなくとも嫌われてはいなかった筈なので、例え作った物であってもあの笑顔を向けてもらえる事が永遠に無くなるのだと思うと、フェリシアは胸が苦しくなった。
でもどの道婚約を解消してしまえばそうそう会う事も無いので同じことかもしれない。傷は負う事になるが、アルベルトを婚約者として縛って知らぬ内に傷つけた贖罪として受けるべきだろう、とフェリシアは痛む胸を押さえて思った。
「その方法で行くわ。でもアルベルト様にはなるべくご迷惑をお掛けしたくないの。お父様の叱責や詰問があったら申し訳なくて。だから私に非があると分かるようにしたいの。どうしたらいいかしら」
「そうだな……明確に周囲にも非を認めさせるなら、見て分かる様にしなくちゃいけないかな」
「……例えば?」
「うーん……色々、こう、乱れてるなぁ、みたいな?」
「乱れる?」
フェリシアは持てる知識を総動員してロドニーの言う乱れるを解釈した。そして、
「こうかしら?」
グイッと、着ていた襟ぐりの空いた服を引き下げて華奢な肩を露出した。
「そう言う事でもあるけど、どこで覚えちゃったのそんな事!」
ロドニーは慌てて服を引っ張りあげる。
「この前絵画鑑賞会があったでしょ? そこで絵の手法を解説してもらいながら教えてもらったの。カンノーテクだそうよ」
「真面目な会だと思ったのに主催は誰? もう行っちゃダメだよ、僕が伯父さんに叱られるんだから……今のは逆効果な気がするから封印してね。そうじゃなくて、言葉遣いとか身嗜みとか振る舞いとか? 目に余るなぁって誰もが思えば、婚約解消も仕方ないって思う、かも?」
「目に余る行動……」
「粗暴さとか、非常識さとか。でもさ、無いとは思うけどアルベルト卿がそういう女性の方が好みだったら意味はないよね」
「異性のお好み……存じ上げないわ。嫌われようとするって考える事がいっぱいあるのね」
フェリシアは真剣な表情で真面目に考え込む。
「そんなに難しくないと思うけどな……好かれる方がよっぽど難しいよ。特に異性としてっていうのは、さ」
ロドニーはそんなフェリシアを見て溜め息を吐いて言った。と、フェリシアは急にロドニーの方へ向いて訊いた。
「ねぇ、ロドニーの好みは? 一先ずそれを一般的な物と考えてその逆を試してみるわ! ねぇ! どんな方が好きなの?」
「え⁈ す、好きって……」
「教えて!」
真剣な目をして間近に迫るフェリシアから、ロドニーは目を逸らしてもごもごと喋り出した。
「い、一般的大多数がそうだと思う事だし、特に誰をって想定してないけど……純粋で素直で優しくて淑やかで、身嗜みとかマナーとかはちゃんとしてるし賢いのにたまにどこかズレてて、だけどそれが何だか一生懸命で可愛くて、笑い声すら玲瓏で外見も中身もすごく綺麗な子……かな」
言い終えたロドニーはほんの少し頬を赤らめていたが、フェリシアはまた真剣に考え始めていたので目に入っていなかった。
「いっぱいあるのね……。でもわかったわ、その逆を目指せばアルベルト様も愛想を尽かして振ってくださるかもしれないものね。うん!」
フェリシアは一人納得すると勢い良く立ち上がった。
「私、頑張って目指すわ! 捻くれててわがままで、粗暴でだらしない婚約者を!」
ありがとう、と言い置いて笑顔で小鳥のように飛び去っていったフェリシアの背中に、ロドニーは何も言わずにまた一つ溜め息を吐いた。
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※誤用と思われる所を修正




