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四十五話 【ガートルードの暗号日記:十歳・夏】

悩んだ末にここにやはり挟んでおこうかなと。


夏の第三の月中旬



 やはりアルベルト様に魔法は効かなかった。


 攻略難度A〜S級相当。ガートルードの魔法に対するガードの固さも隠しキャラサフィールと同等かも知れない。


 当たり前よね、アルベルト様だもの。最上級に決まってるわよ。



 くそっ! わかってたけど悔しい! 

 湖にうっかり落ちたふりして飛び込んで、死ぬ思いして無理やりもぎ取ってきた魔法だっていうのに!



 しかし婚約の報せを聞いて湖に身を投げた作中のガートルードってマジで死ぬ気だったのね。

 あんな深いと思ってなかったわ。春といえど物凄い冷たかったし。

 今さら知るあの子のアル様への本気度。私ですら引くほどの狂気を孕んでるわね。



 その上、兄貴ニコル! 

 まさか飛び込んで助けに来ると思わなかった!

 しかも意外と泳ぎが上手いでやんの。


 大人の男の泳力(上手め)と九歳の女子(誕生日前)が真っ向勝負したら勝てるわけないんだから、助けようと追ってこないでよ! 


 嫌よこんな冷たい湖に何度も飛び込むの! 


 その一心で必死に湖底目指して逃げたわよ。溺れてるふりしながら。芸達者な私。


 おかげで兄貴から逃げられはしたけど、必死こき過ぎて体力使ったもんだから、底に着いた頃には本当に死ぬかと思ったじゃない。

 これで魔女が居なかったら地上に戻る酸素も体力もないから死を覚悟したけど……いた! 魔女もとい魔物! 


 湖を守る心優しき魔女の顔してガートルードを死の淵から助けるけど、正体は人の絶望が大好物な湖底に封印された魔物。

 このゲームの核を成す涙の魔法を授けるキャラ。


 助けてやるけど目前に迫った一八歳の誕生日までに真実の愛を交わす相手を連れて来い、だなんて、いや一月半でそら無理な話やでな難題を吹っかけて来る奴。


 最終的にこいつに喰われるか倒すかで、各ルートエンディングを迎えるわけだけど、それがゲーム開始前の時点でもいた! 

 良かった! 

 本当良かったって思った。居なかったら死んでたし。


 湖底の岩に挟まって寝てる所を叩き起こして、寝惚けてるのを良いことに無理やり授かって来たこの力。


 魅了、洗脳、支配と呼ぶには中途半端で、微妙な効力の涙の魔法。

 誰が呼び始めたのか、いつの間にか公式も使い出した通称・究極の好印象。


 ガートルードの涙及び濡れた瞳を見た者は、深度と程度は別にして必ずガートルードに好印象を抱く。


 程度は良い子そうだなってレベルから、この人が言うことは全て正しいって絶対的信頼を寄せたり、運命感じちゃったりするくらいの親愛を抱くまで様々だけど。

 心に隙が多い者、人を疑わず純粋で、素直で信じやすい者程より魔法が効きやすく解けにくくなる。


 魔法にかかるとガートルードのどんな言葉も仕草も好意的に映り、全面的な信用へと至る。

 お願い事はもちろん容易に聞いてもらえるし、嘘八百の作り話だって信じ込ませられちゃうくらいにね。


 原作ではそんな物を授かった事を夢だと思って、涙する度に無自覚にあちこち恋の火種を撒いていくんだけど、私はコレを最大限駆使してアルベルト様をフェリシアから奪うと決めた。


 手始めとして試しにアルベルト様に使ってみたけど、やっぱり効かない。

 非攻略キャラな上に、ガードが固い。


 目の前で泣いても頭なでなでされただけでいなされちゃった。

 これは、ちょっと、嬉しかったから定期的にやろうかしら。うん。



 魔法だけ手に入れたんじゃアルベルト様は靡かない。心にフェリシアが居座ってるから。

 あいつを退かして弱った心の風穴に魔法ぶち込みでもしなきゃ、やはり振り向いてはもらえない。


 問題ないわ、想定内。

 フェリシアが特別だって見せつけられて悔しいけどね。


 でも私は考えついてるのよ。

 アルベルト様の心を弱らせて、フェリシアを追い払う最高のシナリオを。

 前世では書き上げることが叶わなかった、フェリシアが悪役令嬢よろしく婚約破棄されちゃうざまぁな展開に持ち込むシナリオを!


 ——なんて、そんな上手くは行かない。

 あのシナリオは前提として私とアル様が愛し合ってなきゃいけない。でも現状そうじゃない。


アル様が婚約破棄をフェリシアに告げる事はどうあってもない。


 だから考えた。


 要はアル様に大好きなフェリシアとの婚約を解消させて、傷心な所に寄り添うふりして落としゃ良いんだって。



 作中ガートルードは魔法の効力に気づいて、向けられる愛の全てが魔法の力によるものじゃないかと悩むけど、私は悩まない。

 

 夢だって見続けられたならばそれがいつしか現実と遜色なくなるものよ。

 永遠に魔法にかけ続ければ、永遠にあの人は私の物。


 それで結構。


 恋愛なんて所詮は錯覚。私はとにかくあの人にとろける笑顔を向けられたいの。

 

 それに続けていれば本物の愛だって生まれるかもしれないし。

 そういう始まりの恋もあるでしょ、男と女って複雑だもの。

 読み聞いた話では。知らんけど。うるせぇな。



 だからその為に、フェリシアの方からアル様を振る様に仕向けさせる。


 あの子は自分に悪意を持って接してくる人間がいるなんて露ほども思った事がない。疑う事を知らない純粋で純真な子。

 騙すなんて鼻ほじるより簡単よ。その上この瞳があるんだから。


 どんな嘘を信じ込ませるかはあの子の性格を加味して良く考えなくちゃいけないとして……目下の問題はどう近づくか。

 

 ガートルードはフェリシアを婚約式で初めて認識するから、今の時点で接点は一切ない。直接的にコンタクトを取るのは難しい……。


 だけど、待って。

 確か低ランク攻略キャラのロドニーはフェリシアの従兄弟だったはず。

 おどおどしててあんま気に入ってなかったから設定忘れ気味だったけど確かそう。

 しかもガートルードと同じ、婚約式で人知れず失恋する同士。


 そうね、彼を使おう! 彼しかいない! 

 

 フェリシアに唯一近づける男。

 きっと最高の駒であり同志になるわ。


 そうと決まればどんなキャラだったか思い出すのよ私! 

 今は死にかかったからか兄貴の目が厳しいけど緩んだらヘッドハンティングに行くんだから! 



 そういえばニコル(あいつ)、最近気づいたけどこの日記にも目を通してるっぽいのよね。読めないだろうに。

 

 人の日記読むなって感じだけど、この世界には存在しない言語使って四歳から欠かさず日記付けてるって、他人目線で考えたら色々ヤバいと思われてそうね私。


 もしかしてずっと日記付けてるの気づいてて、だから湖に飛び込んだ時マッハで助けに来たのか? 

 相当ヤバい奴と思われてて密かに監視されてたとか? 

 それとも兄妹愛ルートの布石? 


 いや、なんか目がじとっとしてるから前者だわ。

 ちっ、やりづらい。


 とにかく監視が緩むまでは待機ね。

 一人でふらつける年齢でもないし。しばらくは騎士なりたての若かりしアルベルト様を堪能しようっと。 

 おひょ。



 ところで幼児はまだ演じられるけど十歳前後って一番難しくない? 


 幼過ぎず大人び過ぎず、かと言って思春期特有の反抗やら擦れやらはまだ見られず、年上とのやり取りに変な照れや気兼ねを持たない、甘えと生意気の複合的妙技をナチュラルに繰り出す微妙な年齢。

 ムッズ。


 でもだから……まだ抱きついても許されるってことよね?


 ヒャッハー!

絞れば絞るほど淀みと濁りがどんどん出てくる。

頭の中ではもっとポップなんだけどな

ところで甘みの絞り汁はどこに行ったんだろう。まだ見失っていて出会えるか不安。そしてそれが甘いのかも不安。


お読みいただきありがとうございます!

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