四十話 【とある転生者の日記より 抜粋:第四頁】
甘みじゃなくてどんどん淀みが……
◯月◯日
足りない。
足りない足りない足りない足りない。
一日が二十四時間じゃ全然足りない。
この歳でこんなこと思うなんて想像してもいなかった。
いや、そうでもないな? あのクソ野郎が捻じ込む仕事に追われて一日が三十時間でも足りねーよって叫んだことあったわな。
それは怒りの叫びだけども、これは違います。
むっちゃ楽しい!
楽しすぎて足りない!
夜遊び解禁されたモラトリアム期を思い出すようよ!
そんなはっちゃけた遊び方してきてねーから想像だけどな。言わすな!
二次創作が!
楽しすぎて捗りすぎる!
時間足りない!
食事と睡眠も削って削って尚足りない!
仕事辞めたい!
辞めないけどね、つか辞めれないし、原資なくなると活動も出来ないしね。ハゲながらも頑張りゆく。
普段は帰って来たら飲んで寝ての何の味気も無い生活だったけど、アル様との妄想を書き連ねるようになってから、帰るのが楽しみでならない。
終電終わっても絶対帰るし、少しでも早く終われるようにと仕事も休憩取らずにぶっ続けで頑張れるほどだわ。
それで作業量増えたかって言ったら別だし、イライラはしっぱなしだけどね。
ハゲてんだわ、こっち。
お前のせいで、なあ?
けど同志とも繋がれて、しかも妄想全開ドリームも喜んでもらえて、もうそんな現世の事など帰ってきたら吹っ飛ぶ!
フェリシアじゃなくてもともとガートルードが婚約者だった設定とかぁ、フェリシアなんて居ない世界で、アルベルト様が大人になったガートルードに再会して物凄いアプローチかけて来る設定とかぁ……。
はぁあぁぁ、夢ぇ、詰まってるぅ。
私の理想がここにあるぅぅ。
しかも、こんな夢満載の自分が好き勝手に妄想した素人の殴り書きを、同志に読んでもらえてしかも喜んでもらえるって嬉しみすぎる。
アタイ、足下の泥濘みばかり見てて気づかなかったけど、実は天使に囲まれて生きていた?
応援してくれる上に、心を通わせあえる天使達の為にも、素人ながらにもっと良き物を作っていきたいと思っております。
手を止めるな私!
読んでくれる人が一人でもいる限り!
描いて描いて描きまくれ!
あぁ、でもなんか足りないんだよね。
あのゲームの絶望感というか、喪失感というか……あれを盛大に払拭してスカりたい。
ただアル様とイチャラブするんじゃ物足りないんだよね。
やっぱりフェリシアをどうにかしてやりたくなってしまう。
冒頭の婚約式にしか登場しないモブでありながら、私の王子様をにっこにこで掻っ攫って行くんだから、世界から存在を消し去ってやるだけだなんて生ぬるい。
その手柄掻っ攫う感じがあの馬鹿と出っ腹上司に似ててすっげえ腹立ってならないんだよね。
そういえばあの野郎、表彰されたらしいな?
相手先が大手で一回断られてるだか何だかを引っ張ってきたからって話だけど。
いや、お前は捻じ込んできただけだろ。
こっちに。
滅茶苦茶なヤツを。
丸投げだろふざけんな!
世の中コミュ力ばっか礼賛してんじゃないよぉ!
でも、賞与が上乗せされるらしいから、鼻くそ程には許す。軍資金第一主義。
はぁ、しかしなんか物足りない……。
ガートルードが傷付き悲しみ歩いた道のりをフェリシアにも味わわせたいっていうか……。
お、そういう事か?
フェリシアも失恋させちゃえば良いんじゃない?
なるほどなるほど……ああ、でも略奪?
それじゃガートルード悪者じゃない?
こちとらもうガートルードと一心同体ですからそんな悪事に手を染めたくないな……。
不倫ゴシップを嬉々として追っかける心がドロついてる身としては、追っかけられる側になってはいけないと思うんだ。ドロついててもそれくらいのモラルはある。
それにたとえ創作とはいえ、いや創作だからこそ、自分、心も外見も美しくどちゃくそ可愛い天使なんです、っていう主人公でありたい。
となると……アル様の心変わりで婚約破棄?
えー、それじゃあアル様最低の浮気野郎みたいに映らない?
彼の何が良いって結局は一途で婚約者にだけ特別優しいって所だからね?
同志にも支持されなくなっちゃう……。
そうすると……そうか!
フェリシアを悪役にすれば良いんだ!
それでアル様の一途さは変えないで、ベクトルを変えれば良い。
幼い頃から慕いあっていた主人公と王子様。けれど二人を引き裂く悲劇が!
金と権力にものを言わせた悪徳公爵が王子の持つ財だか何だかを取り込もうと、自分の娘と勝手に婚約を決めてしまった!
逆らえずに泣く泣く別れる二人。ああ、でも忘れなくちゃ、もうあの人とは結ばれる事はないんだから……。
婚約式の日に蓋をしていたその気持ちにお互いが気づいて婚約者そっちのけで見つめ合う二人。
蔑ろにされてぶち切れる自分至上主義の婚約者。
結婚式までの間に繰り出される婚約者からの主人公への執拗な嫌がらせ。
王子の為に耐える主人公。
潰れない主人公と自分をチヤホヤしない王子に切れて、婚約者はついに凶行に及ぶ!
助けに入る王子!
半狂乱になって取り押さえられる婚約者、王子に抱きかかえられ震えつつも安堵する主人公。
告げられる婚約破棄! あたりまえ!
これだ!
そうだよ、フェリシア。
お前はセリフも無いくせに大罪を犯した咎人なんだ。
ただニコニコふわふわしてるだけでアルベルト様に愛されて、これが罪でなくてなんだと言うんだ。
断罪じゃ。
必要なのは断罪じゃ。
みんなざまぁを待っている。
◯気玉の様にこの世の不条理を集めに集めて私がお前にぶつけてやる!
待ってろ、速攻書き上げてやるからな。
お前が悪役令嬢となって婚約破棄された上に断罪される最期を迎える最高の一冊を!
ひゃひゃひゃひょひゃひゃ。
あー、しかし流石に連日睡眠二時間以下はキツいわ。歳を感じる。
若くても無理だと思うけど。
え、じゃぁ逆に凄くない? 私。
今日はもう寝ようかな……次の同志とのお茶会も先だし、フェリシアは逃げないしね。そうしよう。
そういえば、最近ゼリー系ばっかで食事は十秒で済ませてるけど、固形物食べたのいつが最後だっけ?
寝よって思ったら急にボーッとしてきて思い出せないな……まあ、いいや。不思議とお腹空かないし。
私の主食は乙女ゲームと少女漫画と恋愛小説だから。
明日も早いし早く寝よう。ってもうその明日にとっくになってるけどね。
あーあ、しかし本当、フェリシアになりたい人生でした。
って明日も生きますけどね。おやすみなさい。
※以降白紙
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「それではこれより検証——」
「……あ?」
「どうしました、担当官」
「あ……え? えー……とぉ」
(あれぇ? 私ぃ、もしかしてぇ……転生先人物間違えちゃいました?)
「……な、なんでも、ないでぇす」
「そうですか。それではこれより——」
春の設定なのに秋にしか使っちゃいけないんじゃないか、って言葉を数ヶ所入れ込んでしまったとちょっと前に気づいたけれど、どう直そうか考えあぐねて未だ恥を晒し続けています。
しかし、甘みが。




