二十八話 わがままだって過ぎれば
「嫌です」
フェリシアの突然の発言にアルベルトは見当も付かず尋ねた。
「……何が、だろう?」
「あの方……ガートルード嬢と、ふ、二人でお出掛けになるなんて、嫌です。行かないで」
こんな事を思うのも伝えるのも、なんて浅ましく恥ずかしい事だろうと、フェリシアは耐えがたい羞恥に顔が赤くなり、アルベルトの腕を掴んだ手まで震えて来ている。
「私とだって、二人で遠出するなんて滅多にして下さらないのに、あの方とは行かれるなんて……ズルい。行って欲しくないです」
止める権利なんて無いのに身勝手な願いを口にするわがままさと、醜い心を曝け出している自分が許せなくてフェリシアは涙目になる。
「行かないで。嫌です。私とはいつも少しお話するだけなのに、あの方には時間を作るだなんて酷い。今だってこちらにご滞在されてらして、一緒に過ごせる時間がたくさんあって羨ましいと思うのに」
喋っているうちに止まらなくなって来たフェリシアは、次々と思っていた事が口から飛び出してしまう。
「以前はもっとお話ししたり遊んで下さったりしたのに、最近はすぐに帰ってしまわれる。お忙しいのは知ってます。短くはない道程を経て少しの時間でも会いに来て下さるのは嬉しいです。でももっと、お話ししたいし一緒にいたい」
ますます涙目になるフェリシアに、それまで茫然としていたアルベルトがハッとして慌て出した。
「フェリシア……少し、落ち着こう、急にどうしたんだ」
「急じゃないです。ずっと思ってました。せっかく、ご無事で戻られて平和にだってなったのに、以前より忙しそうで全然一緒にいて下さらない。それなのにあの方とは、毎日お顔を合わせてお話されてお出掛けまでなさるなんて……」
宥められても興奮気味のフェリシアは止まらない。
大きな瞳に零れ落ちそうなくらい涙が溜まってきているので、未だフェリシアの涙にトラウマを抱えるアルベルトは非常に焦った様子を見せている。
「そ、そうか、悪かった。じゃあもっと時間を作ろう。会いに行く、今よりたくさん。ガーダとも出掛けないし、君が行きたい場所があるなら出掛けよう。お父上に許可が取れるか……分からないが、それでいいか? だからちょっと落ち着いて——」
「良くないです!」
「良くない⁈」
「嫌です! そんな風に、義務みたいになさるなら結構です! あの方には自然になさるのに、私には、いつも距離を置いた様な態度でらして……。あの方を愛称で……仲良さそうにお呼びにならないで下さい。その目にあの方を映さないで、その声であの方の名前を呼ばないで。もう側に行かないで、心の中から追い出して。お話しにならないで、笑いかけないで、怒った顔もダメ、私に見せて下さらない顔をお見せにならないで! 全部ダメ!」
「わかった、悪かった。私が悪かったから、だから——」
「わかってないです! アルベルト様は何もわかってない! 私がどれだけ醜く嫉妬してるか! あの方の前では俺って仰るのが……そんな小さな事ですら物凄く気になるのだってことも!」
ついに感情が昂りすぎて限界を迎えた碧色の瞳からぽろぽろっと涙が溢れた。
それに酷く動揺したアルベルトは咄嗟にフェリシアの頬を両手で押さえて、次々溢れてくる涙を親指で必死に拭う。
「フェ……フェリシア、泣くな、なにも泣くこ——」
「嫌、もう何も、上手く行かないし……こんな、醜い自分……知りたくなかった。こんな汚い部分、知られたくなかった……」
子どもの様にぼろぼろ泣き出したフェリシアに、慰める術もないアルベルトはただ狼狽えて、手では足りずに袖まで使って涙を拭い続けるしかない。
「わ、わかった、わかったから落ち着こう」
「もう嫌、全部いやです! アルベルト様が他の方と仲良くされるのも、それに嫉妬するのも嫌! こんな、わがまま……思う自分も、嫌」
フェリシアは慌てふためくアルベルトの手を振り払って両手で顔を覆った。
なんて醜悪な姿を晒しているのだろうと、自分への嫌悪が耐えきれないレベルに達している。
自身でも傍若無人だと思うほどのわがままの吐露を恥じているが、反面、これで間違いなくアルベルトが軽蔑しているだろうとも思う。
けれどそんな風に嫌われるのを辛く思う自分も確実にいて、フェリシアの心の中はもうぐちゃぐちゃだった。
あんまり賛同者のいなさそうなフェチをさり気なくぶち込んだのは内緒
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