二十七話 お土産は苦くて重い
昼食は上の空で、ただずっと明るく話題を振り撒くガートルードを眺めていた様に思う。
何を食べたかも話したかも、誰がどんな顔をしていたのかも憶えておらず、ただただ彼女に嫉妬する自分が顔を覗かせそうになるのをフェリシアは抑えていた。
なるべく二人一緒の姿を視界に収めない様に俯き気味でいて、問いかけられれば笑みを浮かべ曖昧に返事をしたが後は黙っていた。
そんな風にしてやっと昼食を終えたのに、せっかくだから皆で街にでも出掛けようとガートルードが提案するものだから、いよいよ顔を曇らせてしまったフェリシアに気付いてロドニーがこっそり声をかけた。
「どうしたの? 具合悪い?」
「……ロドニー、私醜いの。あの人に嫉妬してる。これ以上一緒にいる所を見たくない。叫んでしまいそう。こんな自分を知られたくないし自分でも耐えられない」
これ以上親密そうにやり取りを交わす二人を見ていたら、間に割って入ってアルベルトにわがままをぶつけてしまいそうになるとフェリシアは思う。
「相手を知ったら諦められると思ったのに逆だったわ。あの人に嫉妬して執着心が強くなった。何処にも行かないでって、誰の物にもならないでって思ってしまう。なんてわがままで浅ましい」
こんな自分を知りたくなかったと俯くフェリシアを、ロドニーは軽く背中をさすって慰めた。
「……自分を責める事ないよ。好きな人に対しては誰だってそう思う。自分だけの物にしたいって、誰にも渡したくないって……。今日はもう帰ろう、あまり遅くならないと約束もしているしね」
ロドニーはそう言って、行き先に注文をつけるガートルードの相手をしていたアルベルトへ帰る旨を伝えた。アルベルトは急な申し出に少し驚いた様だったが、すぐに馬車の手配をさせようと一旦席を外した。
「もうお帰りなんですの? せっかくお近付きになれましたのに。でもこの後のご予定もありますものね、仕方がないですわ」
ガートルードが残念そうにそう言ってフェリシアは曖昧に笑って返した。
「楽しみはまた次回に取っておきますわ。次回と言えば、もうすぐ婚約式でしたわね! 私も招待を受けておりますので、お祝いに参りますわ! アルベルト様には幼い頃から良くして頂きましたから、式当日は感動して泣いてしまうかも知れないけれど」
酷く楽しそうなガートルードの言葉にフェリシアは心臓が冷たくなる感覚がした。
婚約式に参列し、古くからの知り合いであり、涙する女性。
やはりこの人が占い師の言うアルベルトの真の想い人なのだと確信して、ぐぐっと膝に置いた手を強く握った。
「フェリシア、ロドニー、馬車の支度はすぐ出来るそうだが、どうする」
「ありがとうございます。ではこれで今日のところは失礼します」
そこへアルベルトが戻って来たので、やっと解放されるとフェリシアはホッとした。
けれどガートルードはお土産を渡すのも忘れない。
「アルベルト様、お二人は帰ってしまわれますけど私と外出はして下さいますでしょ? こちらは久しぶりですから案内して頂きたいんですもの」
「わかった、送ってくるからその話は戻ってからにしよう」
はぁい、とガートルードはアルベルトとの仲を見せつける様に笑ってみせてからフェリシアに別れを告げた。
フェリシアはロドニーと共にアルベルトに連れられて馬車の下まで向かうが、心には自身が醜いと称する感情が黒い染みの様に広がり、受取り拒否できなかった土産のせいで頭の中ではこの後の彼女とアルベルトのデート場面を想像し続けている。
いやだ。そんなことしないで。
止まらない想像に通ろう筈もない唾棄すべきわがままが溢れてくる。
アルベルトの幸せを願うと口にしながら自ら身を引くことも出来ず、叶うならこのまま結婚してしまいたいし彼女を忘れて欲しいとまで思っている。
彼女が想い人だと確信しながら、叶うはずのないわがままな願いを持ち続ける執着心を恥じて軽蔑した時、ふと、フェリシアは思いついた。
「……軽蔑……わがまま」
想い人を知れば諦められると思ったが、アルベルトへの思いは募るばかりで破滅の婚約式前に早くも嫉妬に狂いそうになっている。
悪役になる予言が現実に迫っていると痛感しても尚、醜い執着心が邪魔をして自ら婚約解消を願い出られないのだから、やはりアルベルトに振ってもらわなければならないのだ、と。
ならばアルベルトにこのわがままをいっそぶつけて、軽蔑されてこの場で振られてしまえばいいのではないか、と。
そうすれば辛いが諦める以外に無くなり、もう彼女とアルベルトの事を考え続けなくて良くなるだろう、とも。
そう思ったフェリシアは館の玄関を出た所で、待機している馬車に向かう二人の後ろで一人足を止めた。すぐに気付いたアルベルトも足を止め、フェリシアを振り向くその前に、フェリシアの方からアルベルトの腕を掴んだ。
「……どう、した」
突然腕を掴まれて驚いた様に目を見開いたアルベルトに、フェリシアは今この場で振られる覚悟を決めて、溢れ続けるわがままをぶつけた。
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