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十九話 たまにはこちらから伺いますの

 外出の支度が済むとすぐにフェリシアは馬車に乗り込んだ。


 グランリッター王国は大きな川や支流が多くある水の豊富な地で、加えて都市や街道沿いに運河も作られている為、距離のある移動の際にはゴンドラや、もっと長距離であれば小型の船を使うのが貴族も庶民も一般的だった。いつもアルベルトがふらっと短時間でやって来られるのもこの運河のおかげだ。

 フェリシアもカーライル領へと向かうため、領外へ繋がる運河を航行する、ゴンドラを利用しようと館を出発する所だった。


「僕が付いていきますのでご心配なさらず」

「そんなに遅くならないわ、いってきます」


 フェリシアの熱意に負けて外出の許可を出した父と、急な外出に驚いているメアリーに見送られて、フェリシアとロドニーの乗った馬車は市街地を目指した。

 揺れる車内でロドニーはフェリシアに尋ねる。


「君の意外な行動力には毎度驚かされるけど、何処に向かって何する気なの?」


 お出掛け用にふわふわの髪を一つに編んで片側に寄せたフェリシアは、向かい合うロドニーに微笑んで言った。


「アルベルト様をこっそり見に行くの。あの占いではお相手の方は長年の想い人だって言ってたでしょ? だから古くからのお知り合いや、いつも近くにいらっしゃる方じゃないかと思って。見て分からなくても、周りの方に聞いてみるって手もあるし」


「聞いてみるって……こっそりじゃなかったの?」

「抜かりないわ。見て、持ってきたの変装道具」


 フェリシアは明らかに怪しい大きなトンボ眼鏡とハンチングを鞄から取り出して見せた。


「逆に怪しいよ」

「でも私とはバレない筈だわ。ロドニーの分ももちろん持ってきたから安心して」


 やれやれ、と思いながらロドニーは何だかハイテンションのフェリシアを見る。にこにこと楽しそうにしているが、従兄弟の目にはそうは映らない。


「ごめんね」


「え?」

 ロドニーが急に謝ったので、鞄に変装道具をしまっていたフェリシアは顔をあげた。


「ごめん、僕が変な事言ったから。相手を確認したら忘れられるなんて言ったから、無理してるね、ごめん」


 そう謝られてフェリシアは黙ってまた下を向いた。そして静かに首を振る。


「謝る事ないわ。ロドニーの言う通り相手の方が分かれば諦められる気がしてるの。私ね、顔も名前も分からないその人を妬んでるのよ。アルベルト様に愛されて結婚を望まれるのが羨ましいって。替わって欲しいってわがままを言いたくなる。だから実際にどんな方なのか確認して、私じゃ代わりにならないんだって分かったら、やっと本当に振られる覚悟が出来るんじゃないかと思ってるの」


 だからね、とフェリシアはまた顔を上げるとロドニーに笑顔を向けた。


「ロドニーのせいじゃないの。ちょっと無理して陽気でいないと逃げちゃいそうな覚悟の足りない私と、どう振る舞っても動じないお心の広いアルベルト様のせいよ」


 フェリシアは言い終えるとパッと窓の外へ視線を移した。舟に乗るのは久しぶりだ、とわざとはしゃいでみせる姿にロドニーは音にはせず呟いた。

「ごめんね」

 

————

 貴族用の屋根の付いたゴンドラに揺られて、フェリシアとロドニーは無事カーライル領へと辿り着いた。カーライル邸までは運河からは距離があるので辻馬車を利用する。


「乗ったり降りたり忙しいわ」

「大丈夫? 疲れてない?」

「平気よ。久しぶりにこんなに移動したから楽しい!」


 ガタガタと緩い坂を登り切った所で目指す館が見えてきたので、まだ距離はあるが馬車を降りフェリシアとロドニーは徒歩に切り替える。


「ところでカーライル侯にご挨拶はどうするの?」

「どうしましょう。実は悩んでいたの。お父様から訪問に際して書簡を預かっているからお会いしない訳にはいかないし……かと言ってアルベルト様と鉢合わせたら本来の目的が……」


 むむう、と悩むフェリシアにロドニーは懐中時計で時刻を確認して言った。


「お昼までまだ時間があるから、もしかしたらアルベルト卿はまだ訓練中かも知れないよ? 訓練場にいる様だったらその間にご挨拶を済ませてしまえば、もしかしたら」

「ロドニーは天才ね! では一旦訓練場を覗いて、アルベルト様がいらっしゃったら急いでカーライル候にご挨拶に行くわ。その後は見つからない様に隠密作戦よ。私達が伺った事、黙っていてもらえるようにお願いしておかなきゃ」


 作戦も立て、フェリシアとロドニーはまずは訓練場へと向かった。


 訓練施設の石造りの建物の裏手へと見つからない様にこそこそと回り込み、窓からこっそり中を覗いて見る。

 兵士たちは人形を相手に打ち込みをしたり、実戦さながら剣や槍を交えていたりする。皆防具を付けていて見分けが難しいが、その中で一人だけ真っ赤な髪をした人物は容易に見つけられた。


「やっぱりいたね、じゃあご挨拶を済ませ……フェリシア?」


 フェリシアは、じっとその赤髪のアルベルトを見ていた。


「……初めて見た。あんな、怖いくらい真剣なお顔」

 

 見習いなのか一際小さな兵士に打ち込ませては吹っ飛ばしているアルベルトの顔は、フェリシアには決して見せない、普段通りの怖い顔だった。

端折ってるだけで、従者はいる、はず。

もしくは、一応騎士な人がいるから、大丈夫!っていう(苦しい)

当方庶民の為失念した部分は薄目で見て頂けると、明日も生きていけるますです。


お読みいただきありがとうございます。

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