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十五話 私、捻くれ者なのですわ

「ロドニー?」


 朝からフェリシアはロドニーを探して屋敷中見て回っていた。最近では週の始めにやって来て週末だけ帰宅するので、昨日は泊まっていた筈なのだが朝から姿が見えなかった。


「出掛けてるのかしら」


 暫く探したが見つからないので、フェリシアは諦めて庭に向かった。

 世話の行き届いた花壇の花々は今日も美しく、その華やかさが自身の心と対比しているように思えてフェリシアは目を伏せて歩いた。

 そして庭を抜けて鳥籠の様な形の温室へと入って行く。


 この温室へは最近では静かに考え事をしたい時に足を向ける様になっていた。

 妊娠中の母もよくここにいたと聞くから、心を落ち着けるのに丁度良い場所なのかもしれない、とフェリシアは思う。


 円形の温室の真ん中には丸いテーブルと椅子が二脚置かれている。それを中心にぐるりとハーブや果物、あまり目にしない植物などを栽培している棚がある。


 フェリシアは椅子の一つに腰掛けて、突っ伏す様にテーブルにもたれると頭をこてんと乗せた。考えるのはアルベルトの事だ。


「あんなに特訓したけれど、上手くいかなかった。アルベルト様のお心がきっと広いのね。全く気にしてらっしゃらなくて、いつもと同じ様に優しく……」


 いや、とフェリシアは言葉を止めた。

 

 いつもと同じなのはフェリシアがどんな振る舞いをした所で興味がないからかも知れないと思ったからだった。ただ義務だから顔を合わせるだけのどうでもいい存在だから、と。

 そう思って悲しくなって、フェリシアは顔を腕の中に埋めた。


 つい数日前までは微塵も疑うことのなかったアルベルトの優しささえも疑う自分が嫌になる。

 

 思い出すアルベルトはいつも笑顔で優しいのに、それが全て嘘だったなんて思いたくない。そこにフェリシアへの特別な愛情がなかったとしても優しさは本物だった筈だ。

 

 それなのに、愛と同様優しかった思い出すら疑い始めている。あの占いを思い出す度に、どんどんフェリシアの中のアルベルトが揺らいでいく気がした。


「……そんなことない。アルベルト様はお優しい。それは変わりないわ。子供の頃から、一緒にラズの実を摘んでくれたり、私のわがままを聞いて木の枝に登らせてくれたりして、それでお父様に代わりに怒られて……今も昔も変わらずお優しいわ。ただ、恋人の様に私を好いて下さってはいなかっただけよ」


 言葉にするとまた悲しくなって来て、涙が滲み始めた目を慌てて擦った。


「……そう、お優しい方だから、あの程度じゃ許容出来てしまうんだわ。もっとこう、耐えがたいくらいの振る舞いをしなくては」


 その相談をしたくてロドニーを探していたのだが生憎と不在の為、フェリシアは次の手を一人で考える。


「だらしなさも粗暴さも通じないのだから次は……捻くれるを試してみましょう。でも捻くれるって、どういう状態を言うのかしら……ねじれてるの? 何が捻れるのかしら」


 暫く唸りながら悩んで悩んでフェリシアはついに答えを出した。


ねじれてるってことはいつの間にか裏側が見えてしまってて、真っ直ぐじゃないってことよ。つまり表の筈なのに裏側になるってことじゃない? なんだ、それなら簡単だわ。全部逆にすれば良いんだから」


 妙案が浮かんだとばかりにフェリシアはパッと明るい顔になって立ち上がると、早速練習を始める。


「天邪鬼ってことね、好きは嫌いで嫌いは好きで、良いはダメでダメは良いの。簡単よ、だからあなたは……嫌い。美味しい……くないもの」


 温室で育てられていたサラダに良く載っている丸い実を指差してフェリシアは言った。次はハーブ類、鮮やかな色調の花。

 次々指差しては本来思っている事とは逆さまを口にする。


「あなたは嫌い。酸味が嫌い。タルトが甘すぎる時に少しスライスして一緒に食べると爽やかでとっても口に合わないんだもの。そっちのあなたは……本当に大好き。ものすごぉく苦いんですもの、だから好きだわ。お皿に乗せないでってお願いするくらい好き」


 続けている内に楽しくなってきてフェリシアはクスクス笑いながら温室中の植物に話しかけていく。大分スラスラと反転させる事が出来る様になった時、ふと思った。


「あなたはとっても綺麗な色ね、甘い香りもすごく嫌い……待って。甘いとか綺麗とかも反対にしなきゃいけないのかしら? だとしたら凄く頭を使わなくちゃいけないわ。綺麗は……汚い? 甘いは、苦い? 辛い? ダメね、もう少しスムーズに変換出来る様に練習しなくちゃ」


 何処かがズレた生真面目さを持つフェリシアは、また一から練習し直す為に、最初に話しかけたサラダ用の野菜まで戻ろうとして勢いよく振り向いた。


「きゃっ!」


 振り向いた瞬間、目の前に無い筈の壁があった為、驚きよろめいてフェリシアは後ろに倒れかけた。


 そのフェリシアを、壁から伸びてきた腕が抱き留めた。


「すまない、フェリシア。驚かせた。なんだか楽しそうだったから、声を掛けるタイミングを見失ったんだ」


「ア……アルベルト様……」

お読みいただきありがとうございます。

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