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一話 それは呪いめいたパワーワード

じれじれ、もだもだ、甘々になれ!

と念じながら、一話2000〜3000字程に収めて書き進めていく予定です。


「歌がとっても上手だね」


 初めて彼から掛けられた言葉を当時4才であったフェリシアは未だにはっきりと憶えている。庭で一人、歌いながら花を摘んでいた時に後ろから声をかけられたのだ。


「初めまして……じゃないんだ本当は。一度会った事があるんだよ、君が生まれてすぐの頃に」


 振り向くと、燃える様な硬質の赤髪に、光の加減で時折赤味が強く見える鳶色の瞳をした少年が立っていて、地面に座るフェリシアを見下ろしていた。


「でもこうしてお話するのは初めてだね。僕はアルベルト」

 そう言うと彼は跪いてフェリシアと目線の高さを合わせて笑った。


「君の婚約者だよ」


 その言葉の意味を当時理解できはしなかったが、婚約者と名乗った彼の声が、笑顔が、投げかけられる眼差しが、とても穏やかで優しかった事は今でも忘れない程鮮明に記憶している。


 以来、8歳年上の婚約者アルベルトの事をフェリシアはとても慕っていた。


 ただ婚約者とは言っても親同士の口約束の延長のままで、まだ正式に婚約を交わしてはいなかった。

 フェリシアは、当時の当主の戦功を称え王国の第三王女を降嫁されて公爵位を叙爵された、レイフォード家の長女で公爵令嬢だ。母はフェリシアを産んで暫くのちに他界してしまい、以降後妻を迎えなかった父によってそれはそれは大事に育てられた一人娘であった為、成人する18までは結婚は愚か正式に婚約までもさせられないと過保護なまでに守られていたのだった。

 余談になるが、その鳥籠に閉じ込めた様な育てられ方と、高く澄んだ美しい声や愛らしい容姿も相まって、フェリシアは巷間で小鳥姫とあだ名されている。


 その小鳥姫が鳥籠から巣立つ18の誕生日がいよいよ近付いて来て、アルベルトとの正式な婚約に結婚、新婚生活へと夢を馳せていたある日、フェリシアは従兄弟のロドニーに連れられて、当たると評判だと言う占い師の元へやって来ていた。


「……えぇと……もう一度お願いします……」

「だぁかぁらぁぁ!」


 耳慣れない言葉を咀嚼する為に、もう何度も同じ事を占い師に聞いている。ただ聞いても聞いても理解が進まない。

 まず占いの結果に使われている単語を初めて耳にしたしその意味を説明されてもよく分からない。何かの比喩か象徴かと思うがどうやらそうでもないらしい。言葉通りここが()()で貴女も()()なのだ、と占い師は繰り返す。


「あんた、何回聞けば分かんのよ⁈ ふわふわしてんのは見た目だけじゃなかったのね⁈」


 ふわんふわんのプラチナブロンドの長い髪を揺らして透き通る肌をしたフェリシアに、何度も同じ事を繰り返し伝えている占い師は苛ついた声で言った。

 怒気のこもった占い師の声に、碧色の大きな瞳は少し怯えを浮かべているが、フェリシアは予言めいた占い結果をきちんと理解したくて再度言った。


「す、すみません……何度聞いても理解が良く……もう一度だけお願いします……」

「いい⁈ これが最後だからね! もう言わないから! ちゃんと聞いときなさいよ⁈」


 苛つきを抑え切れなくなっている占い師に怯えながらも、フェリシアは頷くと居住まいを正し真剣な眼差しで占いを聞いた。


「よく聞きなさい。あんたが生きるこの世界は、実は乙女ゲーム〈ガートルードの涙の魔法〉の世界なの。あんたには今婚約者がいてもうすぐ迎える誕生日に婚約式を兼ねたパーティーを開く事になってると思うけど、それはあんたにとって破滅への第一歩、地獄の入り口こんにちは。何故ならあんたは嫉妬に狂って婚約者の真の想い人を悪逆非道の限りを尽くして陥れる、乙女ゲームの悪役令嬢だから」


 真剣な表情で、語られた言葉を受け止めたフェリシアだったがやっぱりよく分からない。

 乙女ゲームなる物が恋愛小説の様な物で、自分が生きるこの現実が夢の中かの様にその物語の世界らしいことはふわっと理解した。誰の見ている夢だとの質問に対するプレイヤーだという解は全く理解できなかったが、重要なのは恐らくそこではない。一番最初に聞かされた時から頭の中でこだまするパワーワード【悪役令嬢】、そして【婚約者の真の想い人】の2つだ。


「悪役令嬢……悪役って……私が何か人道にもとる事をすると……その、あの方の真にお慕い……する女性に……」


 震える声でそう聞くと、占い師は薄布で隠した口許にニィッと笑みを浮かべた。


「そう。あんたは婚約パーティーのその日、婚約者の真の想い人を知る事になる。婚約者って言っても、恋愛してる恋人同士なわけじゃない親に決められた関係なんだから当たり前だけど、アルベルトはあんたの事なんて微塵も愛してないの」


 ビクンッと肩を震わせて身を固くしたフェリシアを見て、占い師は捲し立てる様に続けた。


「でもしょうがないからあんたとの結婚を受け入れてきたのよ彼は。だけど、婚約パーティーの日に気付いちゃうの。涙ながらに祝福に現れた長年の想い人への捨てられない想いに。そして彼女の涙に本当は心が通じ合っていたって事に! で、彼の心の動きに気付いて嫉妬に狂っちゃったあんたはその真の想い人を消そうと痛めつけちゃうわけ。なんか……そうね、突き落としたり、ある事ない事吹聴したり? 最後は手にかけちゃうかも。あ、それは流石にちょっとな……ギリギリ助かるかな、そうきっとギリギリ」


「て……手にかけ……」

「そそ、で当然婚約破棄されちゃうし、牢獄だか流刑地だかに追放されるしであんたの未来は真っ暗ってわけ」

「……そんな——」


 さらに増えた【婚約破棄】と【追放】というパワーワードに、フェリシアは震える手で口許を押さえて絶句した。その様子に占い師は益々口の端を歪める。


「嫌よね? そんな未来。でもこれは決まっている事なの。変えられないわ仕方ない。だってそれがゲーム冒頭の始まりのシーンだから。婚約パーティーがこれから起こる事全ての始まりなんだもの。だけどね、起こる事は変えられないけど、それが起こらなければまだ間に合うと思わない? だからね、そのパーティーを開かなければいいのよ」


「で、では、今すぐ父にパーティーの中止を——」

 慌てないで、と占い師は立ち上がりかけたフェリシアを制止した。


「パーティー自体が問題の根本じゃないのよ。全ては他の人を心に住まわせている彼に貴女が嫉妬する事で起こる事なの。でも残念ながら彼の心はその女性の物で、何をしたって貴女の物には永遠にならない。ここまで言ったら私が何を言いたいのか、きっともうわかるわよね?」


 フェリシアは硬い表情で、そこだけが露出している占い師の艶めいて光って見える赤紫の瞳を見て、ごくりと喉を鳴らした。

 占い師は睨み返す様な強い眼差しでフェリシアを見返し、どことなく楽しそうに言った。


「つまり、破滅を回避したいなら、貴女は自ら彼との婚約を解消しなくちゃならないって事よ」

甘いとは何かが分からないまま今回も隙間産業的な物を作っていこうと思います。

ストックが切れるまで毎日1〜数話ずつ更新予定です。時間は不定期です。

お読みいただきありがとうございました。

次話以降もお付き合いいただけたら嬉しいです!

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