『マティアスの過信』
這うようにして浴室に向かったマティアスを見送って、オフェーリアは追加の魔導ストーブを出して火を入れた。
特にマティアスが寝起きしている、天幕に入ってすぐの部屋にはとりあえず2台足して3台のストーブが暖気を吐き出している。
この天幕は部屋の仕切りがなく、暖まりにくいので、彼が落ち着くまでこのままにしておく。
居間とダイニングキッチンは1台のままだ。
「夕食は身体が温まるシチューをメインにしましょう」
鼻歌を歌いながら、オフェーリアも着替えに奥のドアへ向かった。
実はその、ダイニングキッチンの奥にあるドアは、都のオフェーリアに与えられた住居につなげてあった。
そこで今はそそくさと着替え始める。
おそらく、マティアスは当分は風呂から出てこないだろうが急ぐにこしたことはない。
ガシガシと濡れた髪をタオルで擦りながら、ようやく浴室から出てきたマティアスはため息をつきながらダイニングの椅子に座った。
「酷い目にあった……」
彼はオフェーリアが出した熱々のお茶を、ふうふうと息を吹きかけながら口にする。
「明日からは、1日に進むのは1刻くらいにしましょう。
急ぐこともないのに凍死したら馬鹿をみるわ」
マティアスは今回初めて自分自身を過信して、そして痛い目にあった。
危うく凍傷になりかけて、この場合下手をすれば指などを失うことになってしまう。
今回の場合、足指に関してはオフェーリアの護符が十分すぎるほど役に立ったのだが。
彼は顔色を失っていた。
「もう大丈夫?
食事の仕度ができているけど、食べられる?」
遅くなった昼食なのか、早めの夕食なのか微妙な時間だが、オフェーリアはいつもより大きく深い皿に熱々の、つい今しがたまで煮立っていた具沢山シチューを注いだ。
「うん、ショートパスタ入り具沢山シチュー?よ」
目についた野菜とベーコンを千切りにして、ショートパスタと共に煮込んだシンプルなシチューだ。
味付けも塩とコンソメのみ。
それにオーク肉をとろとろに煮込んだ角煮と、ほくほくのカボチャの煮物。
それに焼きたてのバターロールを添えた。