『次の階層に至るために』
「とりあえず今日はゆっくりしましょう」
食後のお茶を飲みながら、今日の予定を言うオフェーリアに、マティアスは黙って頷いた。
「身体が鈍っちゃうかしら?
この天幕の裏はそれなりに広くとってあるから軽い鍛錬くらいは出来るでしょう」
「ああ、十分だ。
気を使ってもらって悪かったな」
実は朝一に見回りに行った時、何度か素振りをしていた。
そして外の、異常なほどの吹雪を思い出して顔をしかめる。
「やっぱりこれは、ダンジョン自体が私たちを逃さないと言う意思なのかしらね」
どうやらマティアスの心の中は、オフェーリアにお見通しのようだ。
「ダンジョンには意志がある、と言われている。
俺は今まで、何を世迷い事を思っていたが、この状況を見ると信じざるを得ない」
「まあ、ゆっくりしましょう。
何か、本でも貸しましょうか?
どんなのが好みかしら」
オフェーリアはマティアスの読書用にソファーを出した。
自分も居間で刺繍をしながら、これからの事を考えていた。
集中して魔力を練り上げる。
そしてそれを【探索】に変え、細くゆっくりと伸ばしていく。
オフェーリアは今、17階層に向かう階段の位置を探していた。
それさえわかれば視界の効かない吹雪の中でも階段へと向かうことが出来る。
「ああ、失敗した。
もっと強く練らなきゃダメね」
もう今日は諦めて、夕食の支度に取り掛かることにする。
オフェーリアにはこの状況が安易に好転するとは思えずにいた。
「今日も駄目みたいね」
吹雪で足止めされているこの3日間、オフェーリアは集中を高めて魔力を練っていた。
そして今日、再び【探索】に挑戦しようとしている。
「できた!!」
汗でぐっしょりと濡れた衣服が、その苦行を表している。
オフェーリアはかつてないほど集中し、魔力を練り上げた。
そしてとうとう【探索】は成功して階段の位置がわかり、これで突っ切ることができるようになったのだ。
「だが無理は禁物だ。
様子を見て、刻んで行こう」