『朝餉』
「ちょうどよかったわ。
今、出来上がったの」
マティアスがドアの前でマントを外していると、キッチンにいたオフェーリアに声をかけられた。
「そうか!それはよかった!!
それと外は相変わらずだな」
昨夜、彼はドアを入ったところの部屋に簡易ベッドを出してもらい、一夜を過ごした。
なので彼の私物……ブーツや剣などをベッドの周りに置いていった。
「もう革鎧も取っちゃいなさいよ。
あの結界石の効果は確かよ?」
マティアスは素直に言うことをきいて、そしてラフなシャツと防具を兼ねるパンツ姿でダイニングテーブルに近づいてきた。
「昨日よりはいくらか明るいが、視界はほとんどゼロだ。
本当に、意地の悪いダンジョンだぜ」
「……少し足止めかしらね。
まあ、とりあえずさっさと食べちゃいましょう」
一応【保温】の魔法がかけてあるのでスープは熱々のままだ。
オフェーリアは無言のまま魔法を解除した。
「おお、今朝も美味そうだ」
「美味そうじゃなくて美味いわよ」
「そいつは失礼」
マティアスはまずスプーンを手にしてポタージュスープをすくった。
皿に落として、またすくう。
これを何度か繰り返して、やっと口にしたスープは口内をやけどしそうに熱かったが、マティアスはゆっくりと味わっていた。
「このクルトンというのも趣きが変わっていいな」
入れたてはサクサク、スープを吸うとパンを浸して食べたときと同じ食感になる。
原材料は何かと聞いて納得した。
「フェリアは色々珍しい食べ物を知ってるんだな」
「まあ、エルフの里は特殊だからね」
この大陸を旅して廻っているマティアスが、初めて出会ったエルフ(ハイエルフ、本当は魔法族なのだが)がフェリアなのだ。
その希少さは言わずもがなである。
「まあ、お腹いっぱい食べてよ。
おかわりはいくらでもあるからね」
外の天候に関する報告は食事のあとだと割り切ったマティアスは、プリプリのウィンナーに噛りついて満足そうだ。
スクランブルエッグはパンにのせて、美味そうにかぶりついていた。
その勢いを見ていて、オフェーリアはそれだけでお腹いっぱいになりそうだった。