『雪』
階段を上がって15階層に戻った2人は、アイテムバッグから装備を取り出し始めた。
マティアスは防寒用のブーツに温度調節の魔法が付与されたマント。これは滅多に手に入らない超希少品だ。
オフェーリアも同じくブーツとローブを着替えて手袋をはめた。
「おっと、それもあったな」
オフェーリアの手袋を見てマティアスも特注のそれを取り出した。
「真冬に移動することは避けたいんだが、山地やら何やらを通る時のために作らせておいてよかった。
こいつなら剣を扱うときでも邪魔にならんからな」
薄手の滑らかな革は何かの魔獣のもののようだが、オフェーリアには判別がつかない。
だが、とてもはめ心地が良さそうだ。
「準備はいい?
じゃあ行きましょうか」
深々と降り続く雪は薄っすらと積もり始めている。
そんな中を、フードをかぶった2人は慎重に歩みを進めていた。
「私の【探査】には、本当に何も引っかからないんだけど、どうなってるのかしら」
ある程度の範囲を探索できるオフェーリアの【探査】にも何も反応しない状況が続いている。
マティアスも常に警戒をしていたが、今現在、ただ雪が降っているだけだ。
「……これはひょっとして」
「ひょっとして、何なの?」
「狩られる対象は俺たちなのかも」
マティアスの考えはこうだ。
まずはダンジョンとは何か、という事から始まるが、ひとつの考え方としてダンジョンとは一種の“生き物”だというものがある。
それはダンジョンが、命を失った魔獣や人の骸、冒険者の装備などを取り込む事からそう言われているのだが、彼はこの階層自体が直接侵入者を襲っているのではないかと考えたのだ。
「それならこれは私たちを凍えさせようとしているわけね?」
「おそらくな」
ずいぶんと意地が悪い。
そしてオフェーリアたちはちゃんと装備を持っていたが、一般の冒険者はどうだろう。
この16階層からは中級以上の冒険者が活動しているのだが、その中のどれほどのものが冬装備を持ってきているだろうか。