『ダンジョンの進化』
「やはり“育って”いるな」
「ええ……」
10階層でもう一泊した2人は、翌朝早く野営地を撤収して11階層へと降りてきた。
そして最近もぐったことのあるマティアスと、10年以上前だが詳細な記録をとっていたオフェーリアの見解が一致した。
先日マティアスがざっと見ながら通過した時には気づかなかったことも、こうして細かく観察すると見えてくる。
「うーん、この辺にあった林がなくなって茂みになってるわね。
……ベリーがなっている。
“湧き”の時期から言って、考えられない成育の早さだわ」
そんな不思議をすべてひっくるめてダンジョンなのだ。
オフェーリアは新たな記録を取りながら11階層をくまなく移動するのだった。
「俺が先日通った時は、一気に突っ切ったからな」
マティアスがダンジョンの変化に気づかなかったことを反省している。
「オルメリオに気づいただけでも大したものだと思うけど?
取り敢えず、上で何とかするでしょう」
オフェーリアにはこれ以上、首を突っ込むつもりはない。
その興味は魔獣や素材に向かっており、冬の間どれだけ採取できるか楽しみにしている。
「ひょっとしたら内部の配置だけでなく、各階層の面積も変わっているかもね」
そう言ったオフェーリアは優雅にカップを取り上げた。
そう、2人は今、お茶の真っ最中である。
「今日はもう少し進んで、良さそうな場所があれば夜営しましょう」
マティアスがサンドイッチを齧りながら頷いた。
あれから10日以上かけて15階層までやってきた。
オフェーリアはまるで新しいダンジョンに対するように探索し、記録していった。
「さて、ここからはマティアスも初めてね。
魔獣だけでなく階層自体大幅に変化しているかもしれないわ。
気を引き締めて行きましょう」
そして階段を降りて行った先は……
雪が降っていた。
「……ダンジョンに天候って、あったんだ」
「他所のダンジョンでは聞いたことがあるが、ここにはなかったはずだ」
「じゃあ、“進化”したって言うこと?」
2人は顔を見合わせた。
「まずは装備を冬物にしないと。
マティアス、防寒ブーツは持ってる?」
「ああ」
「ちょっと一旦、上に戻ろうか」