『新米たちのその後3』
新米たちの目にはもう、13階層への階段が見えている。
だが同時にそこから溢れ出る、名も知らぬ魔獣の姿に凍りついていた。
「お前ら剣を振れ!
あいつらを何とかしないと逃げることも出来ないぞ!」
いつも元気な剣士の彼の声が、心なしか震えている。それだけではない。
彼の膝もガクガク震えて力が入らない状態だ。
「スイニー、先に弓で攻撃して引きつけてくれ。
後のものは斬りかかるぞ!」
感情的になりがちな剣士の彼だが、さすがリーダーである。
的確な指示にパーティーが機能し始めた頃、襲いかかって来ていた魔獣の動きが変わった。
この魔獣、ル・ルルクビタという、2足歩行をする穴熊のような姿をしている。
そしてこの魔獣は、肘から肩の方に向かって鎌の刃状の刃が生えていて、それを武器に襲いかかってくる。
新米たちは今、その恐怖を味わうことになった。
矢を射かけ牽制していたスイニーと呼ばれる冒険者が沈黙した。
ずっと魔獣を狙って射られていた矢が止み、そのことに注意を促そうと視線を移したリーダーの彼が見たのは、真っ二つに斬られたスイニーの姿だった。
音もなく近づくル・ルルクビタの刃が、残された3人に一気に襲いかかってくる。
これが練度の高い高位の冒険者なら退けることができたかもしれないが、新米の彼らには手に余る相手だった。
リーダーの彼が最後に見たのは、まるで笑っているように口角を上げた、複数のル・ルルクビタの顔だった。
「おかえり、早かったわね」
魔導具で連絡を受けたオフェーリアは、わざわざ調薬室から出て玄関ドアまで行き、結界を入り口だけ解除してマティアスを迎え入れた。
「ああ、つまらん依頼をされる前にギルドを出てきた。
……上はずいぶん冷えてきていたが、まだ雪は積もってない」
そう言ったマティアスはアイテムバッグから包みを取り出した。
「これ、屋台がやっていたから買ってきた。
フェリアの好物だろう?」
その匂いですでに何か見当がついている。だがオフェーリアは中を見て喜びの声を上げた。
「ありがとう、この揚げ菓子が好きだって知っててくれたんだ」
びっくりするほど繊細な味の料理を作るくせに、町の屋台の、こんなチープな菓子も好むオフェーリアはまるで子供のようだ。