『【かれー】実食』
歩みを弱めることなく、一気にウッドハウスに近づいたマティアスは勢いよくドアを叩いた。
すぐにドアが開き、嗅ぎ慣れない、しかし無性に食欲を刺激する匂いと共にオフェーリアが出てくる。
「……何だこれは?」
「ただいまも無しに、まずそれ?
まあいいわ。
お腹が減ったでしょう?
すぐに用意するわね」
「ああ、昼飯を食い損なってぺこぺこなんだ」
「何があったの?」
「“湧き”の影響だろうな、普段はいないはずのヤツがいた」
「あ〜なるほど」
オフェーリアにとってこのダンジョンは久しぶりだったが、今までも他のダンジョンに数多くもぐってきた。
その中に、様々な異変……特に魔獣の生息地域についての異変は多々あったのだ。
酷いものになるともぐってすぐの3階層にファイアードラゴンが出現して、大量の犠牲者が出たこともある。
「で、何が出たの?」
「オルメリオだ」
「何だ、大したことないじゃん。
それなら慌てて帰ってくることもなかったんじゃないの?」
オフェーリアはウッドハウスの中に戻っていった。
どうやら夕食の準備をするらしい。
マティアスは装備を外してテントの中に仕舞い、剣だけを携えてオフェーリアを待っていた。
だがすぐに自分に向けられた視線に気づいて顔を顰める。
結界の外には例の4人組が、結界に張り付いて何事かを喚いていた。
「お待たせ……【洗浄】」
マティアスの身体ごとテーブルをきれいにしたオフェーリアは、まずはテーブルの上に鍋を取り出した。
途端にあたりに独特な香りが広がって、思わずマティアスは舌舐めずりをしてしまう。
「ちょっと見た目は悪いけど、味は保証するわ。
これは私の出身地の長の、その都でも希少な料理なの」
マティアスは【都】と聞いてピンときた。
ハイエルフのそのまた上位種と言えば魔法族である。
するとこれから出される料理は魔法族が食しているものなのか、と目を見開いた。
その料理はオフェーリアが語った通りとても見栄えは悪かった。
だが同時にその香りは限りなく食欲を刺激する。
「パンとライス、どちらでもイケるんだけど、マティアスは慣れたパンの方がいいかな。
私はライスで食べてみるわね」
深皿によそわれた【かれー】には具材がたくさん入っている。
マティアスは一緒に出されたサラダなどには目もくれず、さっそくパンですくって口にした。
「……美味い。
何とも言えない旨味の後に辛さがくる。
だがこれはクセになる味だ」
そう味の感想を述べたあとはマティアスは一切口をきかず、ひたすら食べ続けたのだった。




