『異変』
一気に15階層まで駆け下りてきたマティアスはその僅かな異変に気づいていた。
「やはり、違うか……」
マティアスはこの町に来てそれほど経っていないが、このダンジョンには何度かもぐっている。
その彼が感じている違和感は生息する魔獣の種類だ。
「さっき退治したオルメリオ(二足歩行の鹿に似た魔獣。肉食で剣や槍などを持って襲ってくる)なんて15階層にいるやつじゃないぞ。
これはやはり“湧き”の時に生息地域が変わったのか?!」
もっと上層でも低ランクの魔獣が今までと違う階層にいたりした。
だがそれは本当にザコなので、マティアスは気に留めていなかったのだが。
「これは、今までの常識で動けば、下級冒険者の連中はヤバいかもしれないな」
今まで15階層は、下級冒険者にとってギリギリのレベルだった。
だがオルメリオなど、どうやっても勝てるような魔獣ではない。
「一度、戻るか」
マティアスはオルメリオの首と素材として売れる部位、食用になる肉をアイテムバッグに収めて踵を返した。
「くそ、まだ昼飯も食ってねえじゃないか」
マティアスは非常に不機嫌そうだ。
「何だ、こいつら」
15階層から駆け上がってきたマティアスはウッドハウスの前に座り込む冒険者たちを見て、思わず呟いた。
それから魔導具を取り出しオフェーリアに連絡する。
「マティアスだ。
ちょっと問題があったので戻ってきたんだが、家の前にガキどもがいるんだが」
「お帰り。
あの子たち、まだいるのね。
放っておいたらいいわ」
オフェーリアは相変わらず他人に興味を示さない。
「ドアの前を一瞬だけ開けるわ。
あなたなら入ってこれるでしょう?」
魔導具を介した向こうで、オフェーリアが笑っている。
それはあっという間だった。
突然彼らの背後に現れた冒険者、彼の事はギルドで見たことがある上級冒険者だ。
その彼が、言葉をかける隙も与えず、サッと近づくと何もないように結界を抜けて行ったのだ。
慌てて後を追おうとしたが、今までと同じく見えない壁に阻まれ、ぶち当たってしまった。