『ダンジョンって』
オフェーリアは昨夜から出したままになっていたテーブルに、まずは籠に入った白パンを置いた。
次はブイヨンと牛乳を合わせたスープ、中には細かく切ったじゃがいもが入っている。
今朝の玉子料理は特大のスフレオムレツ。ソースはほうれん草とベーコンをトマトソースで煮たものだ。
それとマティアスのために厚切りのハムが並べられていた。
サラダはベビーリーフとチーズのサラダ。あっさりとしたドレッシングがかけてある。
「おかわり自由、量はたっぷりあるから言ってちょうだい。
一日の始まりの食事は大事なのよ」
マティアスは厚切りのハムに齧り付いた。
朝食の後、夜営の撤収をしたふたりはゆっくりと階段を降りていった。
「今日も採取中心でお願いするわ。
確か、前回来た時に7階層でネルモア草の群生地があったと思うの」
「ネルモア草って黄色に黒の点々のやつか?」
「そうそう、今でもあるかしら?」
「見た覚えはあるが、あんなの誰も見向きもしないぜ?」
「ヒトはあまり薬草学には明るくないのかしら。
一番基本的なポーションの素材なのに」
「ポーション自体作れる者が少ないんだ。知らなくてもおかしくないのと違うか?」
「そうかー、魔力かー。
それがあったねー」
ダンジョン都市のような最前線でも、恒久的にポーションは不足している。
何しろ魔力をともなわない回復薬は、その効力が格段に落ちるのだ。
「とにかくネルモア草を採れるだけ採るよ。
マティアスは周囲を警戒していて」
「了解だ」
このダンジョンの浅層は岩石エリアが多いのだが、この7階層もそのタイプで、暗闇の中僅かな発光苔を光源としてその群生地はあった。
「いつ来ても不思議なのだけど、光合成とかどうなっているのかしら?
やはりダンジョンのことは深く追求するべきではないのかしらね」
「さあ?
ここの中で起きることは“ダンジョンだから”と深く考えない方がいいと思うぜ?
中が何年かに一度、組みかわっちまうって話も聞いたことがある」
そう、20階層ぐらいだった小規模ダンジョンが、ある日突然200階層を越える大規模ダンジョンに変化することがある。
摩訶不思議な場所、それがダンジョンだ。