『誤解』
小型の魔導ストーブを足元に置いて、マティアスはゆっくりと腰を降ろした。
その視線の先は結界の外の冒険者たちに向けられている。
彼の鋭い視線に中てられて、得物を振り回すのを止めた冒険者たちは、すごすごとその場に座り込んでいった。
「最初っからそういうふうに大人しくしてろって言うんだよ。
それからもう動くな」
声を通さない結界だが何となくマティアスの意図が伝わったのだろう。
数えてみると総勢10名いる冒険者たちは結界前のその位置で焚火を起こし、各自黒パンと干し肉を齧りはじめた。
「……俺も、いつもはああなんだなぁ」
テーブルの上にはオフェーリアが置いていった保温水筒がある。
ここには熱々の紅茶が入っていて、自由に飲んでいいと言われている。
「何かなぁ、あんなのに慣れたらこれからどうなるんだよ」
持ち手つきのカップに紅茶を入れて口にすると、茶葉のよい香りは変わりなく、その熱さは心地よい。
満足の吐息を吐いてマティアスは外の冒険者たちに視線を戻した。
その頃結界の外では冒険者たちの不満が爆発寸前だった。
彼らはまさか目の前のウッドハウスが個人の所有だとは思わず、公共(冒険者ギルド)の施設だと思い込んでいて、中に入れないことが不満なのだ。
なのでアピールをしていたのだが、中にいる上級冒険者に睨まれてしまった。
「おまえら覚えてろよ!!」
負け犬のように吠えていた冒険者たちが、後日ギルドにて抗議した結果、ウッドハウスが個人の持ち物だと知って愕然としていたことを付け加えておく。
「おはようマティアス。
あなた、ちゃんと寝た?」
すっかりと身支度を整えたオフェーリアがウッドハウスから出てきた。
少しゆっくりめなので、外にいた冒険者たちはすでに出発している。
「おはよう。
ああ、テントでゆっくりさせてもらったよ」
これは件の冒険者たちのおかげでもある。
たとえマティアスが熟睡していたとしても、まず襲われるのは彼らであって、その間にマティアスは態勢を整えることが出来る。
なので夜営では考えられないほどくつろげたのだ。
「そう、よかった。
では朝食にしましょうか」
朝食ひとつとってもドキドキするマティアスであった。