『結界』
テーブルの上の、出されたものすべてを平らげたマティアスはしばし茫然としていた。
「おー、よく食べたね〜
ここまで食べてくれるなら作りがい(作り置きが主だが)があるね」
「なあ、もしかしてこれから先、ずっとこんな食事が続くのか?」
「ん?そうだよ」
ガバリとすごい勢いで立ち上がったマティアスは、大きな体を折りたたむようにして頭を下げた。
その意味がわからないオフェーリアはポカンとしている。
「こんなに美味いものを食ったのは初めてだ。改めて礼を言う」
今からそんなことを言っていたら保たないのではないかと思う。
「願わくば将来、俺が歳をとって冒険者を続けられなくなった時、あんたの護衛になりたいと思う」
「うふふ、楽しみにしているわ」
ヒト族とオフェーリアたち魔法族の間には、越えられない時の隔たりがある。
極端に長寿な魔法族であるオフェーリアは、たとえマティアスが老人となったとしてもおそらく今の姿のままだろう。
「よし、約束だ!」
「ねぇ、それよりも、お互いにあんた呼びは止めない?
私のことはフェリアと呼んでちょうだい」
「それなら俺のことはマティアスと呼んでくれ。
これからよろしくな、フェリア」
「ええ、よろしくね、マティアス」
ふたりは改めてガッチリと握手した。
「で、さっそくお客の登場だ」
「まあ浅層だし、あるわよね」
下の階層に降りる階段の手前で、派手に明かりを灯して家まで設置しているオフェーリアたちはかなり目立つ。
今はもう外では深夜になりつつある時間帯だが、彼らはようやくこの場にたどり着いたのだろう。
「この結界、一応音も遮断するので、無視していたらいいわよ。
さて、そろそろ休みましょうか」
目の前のテーブルの上の使用済みの食器は【洗浄】しながらアイテムバッグに仕舞われていく。
その頃ようやく間近までやってきた冒険者たちは、お約束のように結界にぶち当たって弾かれていた。
「なあ、何かわめいているぞ」
「大方、中に入れろとか何とか言ってるんでしょ。
無視していたらいいわよ」
一応見張りをするマティアスは、居心地が悪そうだ。
「あんな連中にどうこう出来る結界じゃないから、あなた、いえマティアスも休めばいいじゃない」
「そうは言っても、な」
得物を振りかぶり、結界に向かって振り下ろすさまを真正面から見るのは気分が悪い。
「放っておいたら、そのうちいなくなるわよ」
「いや、あいつらもここで夜営するんじゃないか?」
「まあ、公共のダンジョンの中だし、好きにすればいいと思うわ」
おやすみ、と言ってウッドハウスに入っていったオフェーリアを見送って、視線を外の冒険者たちに戻したマティアスは、自然とため息がでた。