『オフェーリアの素顔?』
それは【血抜き】という生活魔法のひとつだった。
生物の血液(昆虫などは体液も含む)を一瞬にして消滅させてしまう恐ろしい魔法だ。
「蛇類なんかの血液も素材とする魔獣以外には、使い勝手の良い魔法だわね」
通りで森でもダンジョンでも余裕なはずである。
オフェーリアがその存在を把握した敵は、すでに殲滅が決定しているのだ。
「ところでコレ、どうしましょう」
はっきりと“ゴミ”と言わないだけ優しいのか、よくわからない人物なフェリア。
マティアスはその質問に答えることにする。
「これはダンジョンの特徴のひとつなんだが……ダンジョンで発生した死骸は、一定時間経過するとダンジョンに吸収されるんだ。
どうやらその大きさにもよるみたいなんだが、残ってる時間は様々だ」
どうやら腐ることはなさそうだ。
オフェーリアはホッとした。
「では、先を急ぎましょうか」
「こいつら、このままでいいのか?
剥ぎ取らないのか?」
「剥ぎ取るって何を?」
素材となる魔獣ではあるまいし、どうしようと言うのだろう。
オフェーリアは自分が知らない、人体に利用出来るものがあるのかと、本気で考えた。
「こいつらの装備とか……所持金とかだよ」
少しがっかりした。
もちろんそんなものはいらないので、マティアスの自由にするように言うと、彼はしばらく骸を蹴飛ばしたりしていたがすぐに諦めたようだ。
興味をなくしたマティアスはオフェーリアに、先に進むよう促したのだ。
上層での魔獣はザコばかりだが、その数だけは多い。
とりあえず、その処理はマティアスに任せ、オフェーリアは浅層で採れる薬草類の採取に勤しんでいた。
「むむ、ちょっと待って!」
「またかよ」
そう、実は先ほどから大して進んでいない。それはオフェーリアがある素材の群生地帯を見つけたからだが、それがエグかった。
「ほほ〜
これはよく肥えた、上質なモミちゃんですよ」
語尾にハートマークがつきそうなくらい喜んでいるオフェーリアだが、マティアスは露骨に顔を顰めている。
何故なら、オフェーリアが特製のトングで摘み上げているのはいわゆる節足動物……くだいて言えばゲジゲジの仲間であるからだ。
「モミちゃんって、あんた……
そいつは強くはないが毒があるんだぜ」
「その毒が大切なんですよ」
どれだけ用意してきたのか、専用の保存瓶に一匹ずつ入れてコルクの栓をする。
それを目の前に掲げて軽く振り、うっとりと見つめる姿は……たとえどれほど美しい姿形をしていようと、百年の恋も醒めるだろう。