『ダンジョンでの襲撃』
「初日は飛ばして、最低でも5〜6層までは行きたいわね」
何を馬鹿なことを、と思ったのを叱り飛ばしてやりたい気分のマティアスは、依頼主であるオフェーリアの前方を守りながら駆けていた。
その少女(に見えるが年齢不詳)は【身体強化】と【浮遊】を使い、涼しい顔をして後について来る。いや、後ろから急かしてきている。
この調子で行けば余裕で目的の階層に着くだろうと思っていた。
「ねえ、こういうのはダンジョンでは珍しくないことなの?」
呆れた口調のオフェーリアが訊ねるのは、周りを取り囲む男たちの事を指している。
「いや、そう頻繁にあることではないが……俺も舐められたもんだな」
マティアスは憮然としていて、今言ったように“舐められた”ということに怒っているようだ。
「このひとたちは冒険者なのかしら?
ダンジョン都市の冒険者ギルドに登録しているひと?」
オフェーリアは以前も森などで襲われた事があったが、それらは盗賊などが多かった。
「俺は見たことのない奴らだが、多分そうだろうな。
だが変だな。今はこんなに徒党を組めるほど入ってないはずなんだが」
最後はブツブツと聞こえにくい声だったが、その意味していることは理解した。
オフェーリアはこのピンチ?を打開するための提案をすることにする。
「ねえ、こういう場合は処分しちゃっていいのかしら?」
「何をブツブツ言ってるんだ!
お前ら覚悟しろよ!
そして持ち物全部、俺らに寄越しやがれ!!」
それなりの日数このダンジョンに潜んでいたのだろう。薄汚れた姿からは悪臭が漂ってくる。
「もうその姿だけでも万死に値するわね!
近づくんじゃないわよ!!」
その時何が起きたのか、正直マティアスにはさっぱりわからなかった。
彼の目の前で、剣を振りかぶったままバタバタと倒れていく。
少し離れた壁面から2人を狙っていた弓師も同じ運命を辿っていた。
「どういう事だ?
あんた何をした?
こいつら、傷ひとつないのに死んでいるじゃないか」
「そりゃあ、身体中から一滴残らず血がなくなったら、生きていけないわよねぇ」
コロコロと笑うオフェーリアを見て、マティアスはこれほど恐ろしい思いをしたのは初めてだと思った。