『護衛決定』
冒険者ギルド長ジャンは、この度の人選には非常に頭を悩ました。
……腕の立つ冒険者はそれなりにいる。
だが、彼の高い基準に叶うものは数人しかいない。
そして現実を見て選び出したのが彼、マティアスだった。
緑がかった黒髪に赤褐色の瞳。
純血のヒト族ではないようだが、見た目では何の種族の混血なのかよくわからない。
孤独を好み、親しい仲間などもおらず、群れることもないと聞いている。
彼がこのダンジョン都市にやってきたのは数ヶ月前だが、ジャンが得ていた情報通り、孤高の実力者だった。
「何だ、2人とも。知り合いか?」
「知り合い、と言っていいほどのものではないわ」
ジャンの隣ではマティアスも頷いている。
「お嬢、どうだろう。
彼はマティアス。B級冒険者だ。
ジョブは剣士、この通り無愛想だが」
「そうね、ジャンを信用して彼にお願いしようかしら」
そう言ったオフェーリアはマティアスに近づき、手を差し出した。
「私はフェリア。ジョブは薬師よ。
よろしくお願いするわ」
「俺はマティアス。よろしく頼む」
ふたりはがっちりと握手した。
「あなたはもう冬支度は済ませていたのかしら?」
揃ってギルドから出て、近くの食事処にきたオフェーリアは注文を済ませたあとマティアスに聞いてみた。
「冬支度と言っても冬の間はダンジョン攻略するつもりだったし、町での住処は今いる宿屋を押さえていた。
食糧は硬パンと干し肉なんかはそれなりに備蓄しているが?」
彼もアイテムバッグは携帯しているようだが、それなりの容量しかないようだ。
冒険者は彼らの財源である素材……魔獣を出来るだけ沢山持って帰りたがる。なのでそれ以外はなるべく入れたくないのだ。
「依頼を受けてもらう時に聞いたと思うけど、ダンジョンの中での食事は全部私が持つわ。
それから、ええと、あなたのテントはどんなのかしら?
装備一式、見せてもらえると嬉しいのだけど?」
「ああ、構わない。
このあとどこかで見てもらおうか」
「じゃあ、今私が厄介になっているおうちで確認させてもらおうかしら。
あと細かい取り決めは書面にした方がいい?」
「そうだな。
倒した魔獣の取り分なんかははっきりしておきたいな」
「了解。
基本的に私が欲しい素材以外はあなたのものにしていいわよ。
ちょっとレアな魔獣の素材は山分けでお願いしたいところだけどね」
「全部等分でなくていいのか?」
「お肉なんかは料理に使えるのはゆずってもらえればうれしいわね」
マティアスには反対する意味がない。
彼は大きく頷いた。