『目から鱗』
巷ではすでに木枯らしが吹き、朝晩だけでなく日中の気温も上がりにくくなっていた。
街ゆく人々は心なしか皆、足早に通り過ぎていく。
オフェーリアがここにきた当時賑わっていた露店などの数も減り、活気もなくなってきていた。
「もう野菜なんかの品質は……ダメね。
ストックはそれなりにあるけど、都で調達したほうが良さそう」
オフェーリアはひと冬分の食料を準備しなければならない。それも2人分だ。
「作り置きできるものや出来合いのもので美味しいものは買い置きした方がいいわね」
そう呟いているオフェーリアの視線は、懇意にしている串焼き屋の方を向いている。
「おじさーん、串焼き10本、持ち帰りで!」
早速実行するオフェーリアはアイテムバッグから箱型のキャセロールを取り出した。
この容器は串焼きの長さにちょうど良いのだ。
「ねえ、おじさん。
おじさんはいつまでここで商売するの?」
「ああ〜?
雪が降ってくるまで、くらいだな〜」
「じゃあさ、大口の注文、受けてみない?
私ね、長期でダンジョンにもぐるつもりなの。
だからおじさんとこの串焼きを持っていきたいなって思ったのよ」
「おお、どのくらいだ?」
「そうね、200もあればいいかしら。
大丈夫?」
「わかった、いつがいい?」
「そうね……3日後でどうかしら?」
口約束では不安だろうからオフェーリアは手付けとして幾らかの銀貨を渡しておくとする。
ダルタンの家の敷地内にあるウッドハウスに帰ってきたオフェーリアは、すぐに都に転移した。
「ここには【冬籠り】なんてないのに、不思議ね」
「不思議でもなんでもないぞ。
そもそも大陸が違うのじゃ」
オフェーリアの呟きを拾ったのは教官のひとり、魔導具師の老爺だ。
「え?そうなの?」
「なんじゃ、おまえさん知らなかったのかの?」
「ええ、まったく」
通りで地図に載っていないはずだ。
「で?今日はどうした。
件の美容液とやらは先月、大量に持って帰ったと思うが……」
「あれはもう納品し終わりました」
オフェーリアがダンジョンに行っている間に切れないように、ちゃんと多い目に届けてある。
そう、あの一族との付き合いも考え直す時が来ているのかもしれない。
「じゃあ、なんだ?買い物か?」
「それもありますね〜」
まずは金物屋だ。