『決心』
オフェーリアにとって、先日の件……少女がフォレストベアーに襲われ、喰われた事は些細な出来事だったが、あの男との出会いは衝撃だった。
彼女とてそれなりの修練を受けてきたものである。それが背後を取られるまで一切気づかなかったことにショックを受けてしまっていた。
それでオフェーリアはウッドハウスに篭っていた。
すでに5日経っていて、時々表でダルタンが呼びかけていた。
「姉御〜
何か気分を害することがあったんすか〜?
話してもらえないとどうしたらいいかわからねぇじゃないですか〜」
煩く感じたオフェーリアは【防音】の魔法ですべてをシャットダウンし、沈黙した。
その間、いつもよりも集中して調薬を行なったのは言うまでもない。
「どこか具合が悪かったのですか?」
ずいぶんと久しぶり……おそらくは半月ぶりのオフェーリアに、クロードは眉根を寄せた。
心なしか顔色も少々よろしくない。
「いえ、そんなこともなかったのだけどね、ちょっと思うところがあって……
ああ、これは今日の分です」
異空間収納からポーションの入った木箱を取り出していく。
クロードの私室と化した鑑定室で2人は暫し無言で作業を続けた。
「ずいぶんな量のポーションをありがとうございました」
その場で納入書が作られ、支払いが行われる。
オフェーリアがこの町にきて季節がいくつか巡ったが、このポーションの販売ですでにひと財産築いていた。
それと時折り都に行って、昔の教官を頼って修行を再開していた。
「冬の間はダンジョンに篭りたいの」
久々に振る舞われた夕食の最中、突然そんなことを言われたダルタンは、口の中のものを吹き出しかけた。
そして咽せて涙目になる。
「姉御、そんなの許可できないですよ、何言ってるんですか。
俺は許さないですよ、ひとりでダンジョンなんて」
「じゃあ、ひとりじゃなきゃいいの?
それなら護衛を雇っていくわ」
「姉御〜
できれば俺がついていきたいっすよ!」
「あら、じゃあ一緒に来る?」
ダルタンの今の立場では絶対に無理だとわかっていてオフェーリアはおちょくっている。