『邂逅』
「ーーーッ ーーー!」
魔獣の駆ける足音と地響き、そして森の下草を踏みしめる音。
それに混じって微かに何かが聴こえてくる。
まだそれなりに距離があるためよくわからないが、それは何かを叫んでいるようにも聴こえる。
「? まさかヒト?」
オフェーリアが視力と聴力をフルに使い森の中を窺っていると、すぐにその声は近づいてきた。
「はあ、はあ、だれか……」
森の木々の間を走るのは、こんなところには似つかわしく無い年若き乙女だ。
そして彼女は冒険者ではない。
なぜならその服装が違和感を感じるほど普通だったからだ。
まるで村娘のような格好をした少女が裾をひるがえして走っていた。
「はあ、はあ、はあ」
少女を追って木々の間から姿を現したのは、まだ若いフォレストベアーであった。
「まあ、大変」
抑揚のない言葉でポツンと呟いてみたが、それ以上何をするわけでもない。
オフェーリアは相変わらず木の上から成り行きを見つめていた。
「!?」
その時、少女と目が合った。
元々勘の良いタイプであったのだろう。
ほとんど気配を消していたはずのオフェーリアを感じ、彼女は叫んだ。
「お願い!助けてください!!」
今まで目標なく逃げていたが、今はその方向が定まった。
彼女はオフェーリアの方に向かって走り始めた。
ここで本来なら正義の味方が助けに駆けつけるのだろう。
そして魔獣は退治され、少女の命は助かるのだが、実際はそうはいかなかった。
今、オフェーリアが見下ろしている場所では、ようやく追いついたフォレストベアーが一撃で少女を吹き飛ばしていた。
その後、鋭い歯が柔らかい肉を引き裂いていく。
だが、木の上のオフェーリアは平然と見下ろしていた。
その時。
「驚いたな、あんたも反博愛主義か?」
まったく気配を感じなかった背後から、突然声が聞こえてきて、オフェーリアは文字通り飛び上がった。