『塞ぎ込むオフェーリア』
季節は春から夏に移り変わり、そして秋になった。
夏の初めにベッドから起きられなくなったジルは秋の初めにその生涯を閉じた。
……周りから聞いていた、親しき者との別れ。
オフェーリアは頭では理解しているつもりだった。
彼女たち魔法族の寿命は、ヒトとは比べものにならないくらい長い。なのでいくつもの最期を見送ることになるだろうと理解していた。
だが、実際それを目の前にして、心が痛まないはずがないのだ。
もう晩秋が近いというのにオフェーリアは何もする気になれず、家に引きこもっていた。
冬籠りの仕度もせずに閉じこもるオフェーリアの目を覚まさせたのは、ダンジョンで起きた異常を知らせるクロードの声だった。
小規模な“湧き”が起こり、浅い階層にいた冒険者に被害が出たという。
「うそ!外に出たの?!」
下着姿のまま飛び出してきたオフェーリアは、その姿を目にしてドギマギしているクロードの首根っこを捕まえて振り回した。
「ちょっ、ひとまず、落ち着いて、下さい」
そっと小さな手をほどいて呼吸を維持したクロードは、オフェーリアの知りたい情報を順番に聞かせてくれた。
「湧いたのがゴブリンやオーク、土狼などだったので死亡者は出ていない。
この季節なのでそれほどの人数がもぐっていたわけではないそうだ」
今回は浅い階層を行動範囲とする低位冒険者が、オフェーリアの簡易ポーションを持っていたことも犠牲者を出さずに済んだ遠因であった。
「中層や下層はどうなのかしら……
もぐっていた冒険者パーティーはいたの?」
「記録ではいないようですが……」
その記録自体、どさくさに紛れてしまって正確ではないようだ。
「もし下層の魔獣が上がってきたら拙いわね。
……わかったわ。
私は出来るだけたくさんのポーションを用意します。
あなたは憲兵隊や防衛隊の様子を調べて知らせてちょうだい」
このあとオフェーリアは、自身でも滅多にしない、大車輪の調薬を行った。