『ポーションの行方』
そのようにウッドハウスに篭って調薬していると、頼んでいた薬草を持ってクロードが訪ねてきた。
このウッドハウスはオフェーリア以外は立ち入れないので、ダルタンの家の居間を借りて出迎える。
「助かったわ。
そろそろ初級ポーション用のクラム草が心許なかったの。
人の家だけど、どうぞ座って下さいな。お茶を淹れますわ」
クロードが嬉しそうに微笑んでダイニングの椅子に腰を下ろす。
引き渡しはお茶のあとに行うようだ。
「で、冒険者ギルドの方はどう言っているの?」
あちらとの交渉はすべてクロードに任せてある。
オフェーリアにとって冒険者ギルドは良い思い出がないので、最初から関わりを断ったのだ。
「相変わらずですよ。
あれを寄越せ、これを寄越せ。
やれ値段が高すぎるなど文句ばかり。
ポーションを必要とするのは冒険者ギルドがダントツに多いはずなのに、欲しいものは行き渡らない状況ですよ」
オフェーリアとしてはギルド長に対して思うところはない。
ただ絶対的に冒険者ギルドとは相性が悪いだけだ。
「ダンジョン攻略に向かう冒険者全員が、せめて簡易ポーションだけでも携帯できるようになれば、冒険者の死亡率が下がると思うの」
生物的には異なる生き物なのだが、オフェーリアにだって良心はある。
ダンジョンの中で適切な手当てを受けられずに死亡したり、不具になったりする冒険者を減らしたいと思う。
「今はまだですが、行く行くは商業ギルドで直接冒険者にポーションや薬を販売することを考えているんです」
それはおそらく想像を絶する軋轢を生むだろう。
だが、クロードは決心したようだ。
「まだ細かく決めているわけではありませんが、商業ギルドの下部組織として【薬師ギルド】の設立を考えています。
すべての薬類はそこを通して商う事になれば、冒険者ギルドが抗議してきても無視することができるでしょう」
「薬師ギルドですか。
それはとてもよい考えですね」
まだ独立してギルドを運営できるほど薬師の数は多くない。
クロードの考えは理にかなっていると言えるだろう。
「私もしばらくはここにいるつもりだから、手伝えることがあれば言ってちょうだい。
……今、この町には何人くらいの薬師がいるの?」
クロードの表情が僅かに曇った。
「本当の意味で薬師と言えるものはフェリア様以外に3名。
ただ魔力値が低いのでポーションの性能は良くありません」
今度はオフェーリアが顔をしかめた。