『オフェーリア捕獲未遂事件』
オフェーリアは毎日、精力的に行動していた。
まず優先したのラバナラの【デラメントル】への商品の補充だ。
特に王侯貴族および富裕層のための美容液を切らすわけにはいかない。
魔法族の都から仕入れてきた美容液を専用のガラス瓶に移し、固定客用に準備したものを木箱に入れて、店舗2階の以前のオフェーリアの部屋だった場所にある転移陣に転移する。
毎回そっと転移陣の外に木箱を置いて戻ってくるのだが、その日は違った。
……事もあろうか、頭上から網が落ちてきたのだ。
その網は漁業で使う投網のようなもので、オフェーリアはびっくりしたが、そのまま転移していった彼女を見た犯人たちの方が肝を潰しただろう。
「これはあなたの指図かしら?」
怒り狂ったオフェーリアが現れたのは、まだ商業ギルドにいたアーチボルトのところだ。
もちろん寝耳に水のアーチボルトは仰天して、執務机の向こうから飛び出してきた。
さもありなん、オフェーリアは未だ投網を被ったままで、その姿は非常に異様だったのだ。
「フェリア様?
これは……一体どうなさったのです?」
投網なんて扱ったことのないものを前にして、オロオロとあちこち引っ張ってみて外そうとしているアーチボルトの様子は、とても演技しているようには見えない。
「アーチー、あなたが命じたのではないのね?」
「なぜ私があなたに網をかけるような真似をしなければならないのですか?
こんなことをしても、こうして転移なさるのですから、まったく無駄でしょう」
そうなのだ。
オフェーリアの真の能力を知っているものからすれば網で捕縛しようなど考えもしないだろう。
「【デラメントル】はどこの家に任せたの?
あそこの鍵を管理しているのは、あなたとその家の者に限られるわよね?」
オフェーリアを捕まえようとするなんて、その理由が見え見えだ。
「アーチー、あなたのところの一族、もう末期にきてるのと違う?」
「心から謝罪させていただきます」
真っ青な顔色をしたアーチボルトが頭を垂れる。
その姿を見てオフェーリアはため息をついた。
本家の要の地位をしめているジルの命数は尽きかけている。
彼女が儚くなってアーチボルトだけになるそう遠くない将来、おそらく彼だけでは抑えられなくなるのだろう。
「ヒトの業って深いのよね」