『【ぼくちゃん】の任務』
お久しぶりです。
「今回は残念だったわね」
出来立てダンジョンの探索は中止になったが【ぼくちゃん】は虫捕りなどをしていたのでそれなりに満足している。
だがそれよりもいくら小さなダンジョンとはいえ“氾濫”したのが心配だった。
「キュキュ、キュッ」
オフェーリアのチュニックの裾を握って何か言いたそうだ。
今2人は縦穴を降りるために作られた階段の途中の詰所で穴の底、ダンジョンの入り口を見つめている。
もうすでにほとんどの冒険者は退避し、氾濫に備えて準備が進められている。
そんな2人の様子を感じとったのかダグルが言った。
「今のところこちらのダンジョンに異常は見られません。
ただなにぶん広いダンジョンなので見落としはあるかもしれませんが」
「ええ、引き続き監視を怠らないで。
少ない人数で大変だろうけど、最悪冒険者たちを雇って監視にあたらせて。
私は一度あちらの島に戻って現状を確認して来るわ」
オフェーリアのチュニックを掴んでいた【ぼくちゃん】の手に力が籠る。
そしてその眼差しも全力で『行かないで』と語っていた。
「そうなの?困ったわねぇ。
……そうだ、【ぼくちゃん】に大切な任務をお願いしたいの」
“任務”!!
その聴きなれない言葉はなぜか気持ちをワクワクドキドキさせる。
期待に満ちた眼差しでオフェーリアを見上げると、彼女は【ぼくちゃん】の頭をそっと撫でた。
「【ぼくちゃん】のお仕事はここから下の兵士さんたちの動きを見ることよ。
そしてもし何か動きがあれば、側にいる兵士さんに合図してちょうだい。
そうすれば彼がままに届くようにしてくれるわ。
どう?【ぼくちゃん】頼めるかしら」
「キュウッ!」
つい今しがたまでと違って、瞳をキラキラさせて見上げてくる【ぼくちゃん】はすっかりその気だ。
オフェーリアは【ぼくちゃん】の側に見知った兵士を2人付けて、【飛行】で飛び立った。




