『小ダンジョンの氾濫』
月明かりのなか、小ダンジョンのある名もなき島から次々と飛竜が飛び立っていく。
オフェーリアのこの度の動きは早かった。
ダグルからもたらされた不吉な報告を聞いて、すぐに撤収の命令を下していた。
そして最後の飛竜が飛び立ち監視の兵士の乗った飛竜を残してダンジョン島に向かった頃、上空を周回している兵士の前でダンジョンの穴から魔獣が溢れ出てきた。
「危なかったな」
背中を冷たい汗がつたう。
兵士は身震いして本隊のあとを追って飛竜を駆った。
もうすでにダンジョン村に到着していたオフェーリアは、小ダンジョンの氾濫の報告を受けて大ダンジョンに現在どれだけの冒険者がもぐっているか確認を行う。
すると今もぐっているのは浅層から中層にかけてで、彼らに注意を喚起するためすぐに兵士が派遣された。
「報告ではゴブリンや角兎、魔狼など低級の魔獣が主だったそうだけど、数の暴力で襲ってくるわ。
もしこちらも氾濫が起きていた場合、何よりも自身の安全を確保してすぐに撤退してちょうだい。
では気をつけて」
そしてオフェーリアたちも縦穴の周りの階段の踊り場を拡張して作った詰所に避難した。
【ぼくちゃん】はそのピリピリした空気に怯えている。
「大丈夫よ、【ぼくちゃん】
すぐに飛び立てるように飛竜もそこにいるし、朝までここで過ごしましょ」
すっかり目が醒めた【ぼくちゃん】はオフェーリアの腰に手を回ししがみついている。
「キュ〜」
「小ダンジョンは残念だったけど落ち着いたらまた来ましょう。
今度はマティアスも一緒にお弁当を持ってね」
コクコクと頷く【ぼくちゃん】の向こうからダグルが近づいてきた。
どうやら小ダンジョンの上空からの偵察に向かった兵士が戻ってきたようだ。
「フェリア様、小ダンジョンの氾濫ですがかなりの数が溢れております。
もう島じゅうが埋め尽くされていて一部は海に達しているとのこと。
明るくなればさらに詳細な報告ができると思います」
これからどの程度強い魔獣が出てくるか、それが問題だ。