『【ぼくちゃん】』
【ぼくちゃん】が自身の自我を自覚したのは、竜人たちがダンジョンからの氾濫に対処した少し後、ダンジョン内が落ち着いて兵士たちの探索が始まった頃だった。
気がつけばひとりだった【ぼくちゃん】
自分が何なのかすらわからなかったが、周りの生き物と同じように木の実を食べ、水場で水を飲み、暗くなったら眠る。それを日々繰り返していた。
そうしているとたまに武器を持った生き物を見かけるようになった。
その頃は名前がなかった【ぼくちゃん】だったが自分とよく似た動きをするその生き物に親近感を憶えるのにさほど時間は掛からなかった。
もちろん最初から接触しようとは思っていなくて、ただその生き物たちが動いている様子を見て楽しんでいたのだ。
そのときたまたま数日木の実やキノコなどを見つけることができなくて、飢えてあたりをさまよっていたところ、いつも見ていた生き物がびっくりするほどたくさん居るのに気がついた。
【ぼくちゃん】は思わずその集団の後をついて歩いてしまったが、生き物たちは気づいているのかいないのか、そのまま進んでいる。
そしてとうとう集団の足が止まった。
その生き物たちの動きを目で追っていた【ぼくちゃん】の足は思わずそちらに向かっていた。
“ドン”
目に見えない何かに激突して弾かれる。
痛みに弱い【ぼくちゃん】は悲鳴をあげるが、立ち上がりまた突進して激突しても立ち上がった。
「キューゥ」
そこで【ぼくちゃん】はひとりの女人と知り合い、その出会いは彼の一生を変えるものとなったのだ。
ある日【ぼくちゃん】はいつも見かけている生き物たちが、見るからに違った様子で座り込んでいるのを見つけた。
「キュ?」
この森でも、このあたりで見かけるのは珍しい。
しばらく観察しているとどうやら迷ったようだ。
【ぼくちゃん】はまずは一番近い水場に案内することにし、生き物たちの前に姿を見せるのだった。