『【ぼくちゃん】の今とマティアスの今』
夕飯の、肉団子のトマトソース煮を頬張って【ぼくちゃん】はご機嫌だ。
今日はダンジョンには潜れなかったが森で昆虫採取を楽しんだ。
ちょうど夏場の甲虫たちが活発な時期だったので、珍しい甲虫がたくさん獲れて【ぼくちゃん】は大はしゃぎだった。
もちろん採取後はリリースしている。
この甲虫は飼うと言ってもそれほど寿命の長いものではないし、第一飼育は難しい。
それは【ぼくちゃん】も理解していて夕刻には自ら放していた。
「キュキュッ」
肉団子のトマトソース煮に添えられたマッシュポテトのお代わりを要求している。
【ぼくちゃん】は腕を再生してから食欲が増している。
そして驚くことに、再生してからさほど経たないのに少し大きくなったようなのだ。
欠損による身体異常で止まっていた成長が復活したのだろうか。
「【ぼくちゃん】ゆっくり、たくさん食べてね。
ままは【ぼくちゃん】の好物をいっぱい作るからね」
オフェーリアは嬉しそうだ。
片やマティアスは眉間に深い皺をよせて、不機嫌真っ最中である。
王宮の自室で信頼のおける部下たちの報告を聞いてさらに不機嫌さが増した。
「まったく……前王からの重臣はまともな奴は居らんのか?
つくづく愛想が尽きるわ」
汚職など日常茶飯事、事によっては暗殺も推奨するような腐り切った連中だ。
「これはこちらが素早く動かなければ、俺の命が危ないかもしれんな」
「そんな!王!!」
「何を仰いますか、王!」
「いや、冗談じゃない。
俺はいたって真面目に言っている」
今夜からオフェーリアのログハウスで寝ようと決心した。